第十話 吸血鬼様、帰られる 後編

ファミレスの四人掛けテーブルにて。


「どうして私がこんなところにいるのか説明が欲しいんだけど?」


かきピーは膨れっ面で心底嫌だという態度を取っている。


「大体、どうして狼男がいるの? おかしくない?」


ファミレスの四人掛けテーブルに狼男と女子高生が2人座っている。

文字にしただけでも結構奇抜な状況だ。


「拙者、大神ででござる。この姿で出会うのは初めてでござるよ、かきピー殿」

「何だか口調がおかしいんだけど? 大体、この集まりはなんなの?」


吸血鬼の存在を許容している為か、狼男に対しての反応が薄い。

主に大神くんの口調に突っ込んでいる。


「それはウィル殿が家に連れ去られたでござるよ。ここは強力してウィル殿をお助けするでござる」

「え? 家に帰っただけじゃない?」


そうですね。

普通の反応だ。

これはきちんとした手順で説明が必要だ。


かくかくしかじか


「大体分かった。それで愛しの吸血鬼様を取り返そうと。ロマンチックね」


言い方が気に入らない。

だが、今はそうも言ってられない。

早急に吸血鬼を救い出さなくてはならない。

運が悪ければ、もう2度と会えなくなる可能性も高い。


「よっシー殿、ウィル殿の住まいを知っているでござるか? 我輩はアパートへ行った程度で、家までは知らないでござる。力になれず申し訳ないでござる」


私も知らない。

どうにかして家を見つけ出す。

ここは人海戦術しかあるまい。


「家を探すことに関しては理解したわ。だけど、そうして私たち3人しかいないのかも説明してよね」


最近空気が読めない設定が曖昧だったが、元に戻れたようだ。

だけど、この台詞は別に空気を読めない台詞ではない。

この回答は慎重にならざるを得ない。


「私には貴方たち以外の友達はいないわ」


その場の空気が凍りつくのが分かった。

だが、このことは2人に言っておかねばならない。

自分の置かれた危機的状況を。


「そう、なら頑張らなくちゃね」

「よっシー殿の力になりたいでござるよ」


哀れと憐憫が交じり合った目で生暖かく見つめられる。

こうなることは分かっていた。

だが、力が必要だ。


「あ、私もこの二人しか友達いないわ」

「拙者もでござる」


大神くんは分かるとして、かきピーにいたっては嘘だ。

学校でかなりのコミュニティーを築いている。

ただ面倒くさいだけだろう。


「吸血鬼に詳しい人がいるか、心当たりはない?」


妙な沈黙が流れる。

この3人以外に吸血鬼を知っているものはいない。

少なくとも私は。


「あ、ドリンクバーがなくなったから注いでくるわ」

「拙者も少しお腹がへってござる」


席から立ち上げるもの、急に注文を始めるもの。

かなり興味を失っている。

とうか、無理だと感じ始めている。



吸血鬼に詳しい人……

吸血鬼に詳しい人……


そういえば、彼女なら何か知っているかもしれない。

完全に失念しいた。




吸血鬼と歩いた通学路。

もう、ここを共にあることはないのだろうか。


「乃絵瑠! いるんでしょ?」


私が呼びかけると、何処からともなく小柄な人影が現れる。

こういう技能だけは子供じゃないのよね。


「こんにちは、ハンターのおばちゃん」

「こんにちは」


真っ白なのっぺりとした平坦な仮面をした少女。

自称、バンパイアハンター 三浦ミュラー 乃絵瑠ノエル


「こ、この小五ロリは誰でござるか! せ、拙者に紹介してはもらえぬか!」


この狼男、キャラがブレる程に必死で訴えかける。


「この人達、おばさんの仲間?」

「ええ、ハンター仲間よ」


私がおばさんと呼ばれる度にかきピーが後ろで笑っている。

これは放っておこう。


「狼男は強そうね。でも、こっちのおばさ……」

「お姉さん! 私は、お姉さん!」


鬼気迫るかきピーに乃絵瑠が気圧されている。

普通の子が見たら泣き出すな。


「聞きたいことがあるのだけれど、前会った吸血鬼が何処にいるかしっていないかしら」


乃絵瑠は少し考えると、首を振った。


「ごめんなさい。私は知らないわ」


残念だ。

確かにこの子が吸血鬼の住処を知っていれば、直接襲うはず。

逆に知っていても襲えない場所があれば、そこが吸血鬼が住まう場所の可能性がある。


「アリヤって人の居場所は?」


その名前を聞くと、乃絵瑠は体を震わせた。


「アリーヤを知っているの? もしかして、戦うの?」


ビンゴ!

やはり、乃絵瑠は知っている。


「そうよ、そのアリヤと戦うの」

「む、無理だよ! いくらおばさんが強くても、あのアリーヤと戦うなんて無理! しかも、狼男とおば……お姉さんの3人だけじゃ!」


可愛そうに、かきピーに睨まれた乃絵瑠は怯えている。

やはり、あのアリヤという姉は強いのか。


「教会でも賞金が出るほどの強敵よ。10人がかりでも無理!」

「だから、乃絵瑠の力を貸して欲しい。居場所を教えてくれれば、絶対に勝てる」


直接、白兵戦を挑むつもりはないが、戦って勝つつもりはある。

勝たねばならぬ。


「うん。きっとハンターのおばさんなら出来るよ。アリーヤはきっと日本にある別邸にいるはず」

「決まりね」


私達4人は日本にあるという別邸へ向かう。

まるで、桃太郎だ。

3人のお供と一緒に

犬は大神くん

雉は乃絵瑠ちゃん

猿はかきピーでいいや。


電車で2駅、徒歩10分。

吸血鬼の根城に到着した。

意外とご近所だった。


豪華な門にバラの蔦が伸び、ところどころに花を咲かせている。

今はバラの季節だったかな?


開いている門をくぐり抜け、巨大な玄関の前に立つ。

インターホンを鳴らす。


ピンポーン!


この前の仕返しとばかりに連打しようとした瞬間、玄関が開いた。


「いらっしゃい、よし子さん! パーティーにようこそ!」

「よっシーに皆もいるのか! 流石は姉上、完璧な作戦だったぞ。来てくれなかったら泣くところだったがな!」


私達4人は声を上げることもできなかった。

開いた玄関の先には白いテーブルクロスがかれられた机がいくつか並んでいる。

その上には見たこともない豪華な食事で彩られている。


「ウィル殿に姉上君でござるな。 拙者、大神でござる」

「こんにちは! 柿本といいます。 この度はご招待ありがとうございます!」


この二人の順応の早さが怖い。

特にかきピーはキャラがブレ過ぎている。

空気を読まない設定は何処へ行った。


「乃絵瑠ちゃんも来てくれたのね。私は嬉しいわ」

「や、止めろ。吸血鬼風情とは馴れ合わん!」

「照れ屋さんね」


乃絵瑠はアリヤに絡まれている。


もしかして、私は謀られた?

私ならこうするだろうと、あの姉は読んでいた?

私は……私は……。


「よく来てくれたな、よっシー。来てくれるか心配していたが、要らぬ杞憂だったな」


まあ、なんと言うか。

とにかく、もう会えないということは無くなったかな。


「招待されたからには来ないわけには行かないから」


ここはそういうことにしておこう。

私にも意地がある。


これで、一緒に同じ時間をすごして行ける。

そうでしょ?

私の最弱でクソ雑魚な吸血鬼様。

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私の最弱クソ雑魚吸血鬼様 鮎太郎 @sioyakiayutaro

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