第三話 吸血鬼様、昼食をとる


「ははは、すまん、すまん。転校生を間違えちゃった。めーんご」


担任教諭が凄くうざい。

正直、腹が立つほど。


「こっちが本当の転校生です。自己紹介YOROしく!」


普通にやれ。

担当教諭の隣には予想通り、金髪紅眼の吸血鬼が腕組みをして立っていた。

長すぎる犬歯を出しながらニヤニヤしている。


「はっはっはっ! 俺はウィリアム・L・アルマンデインという。少々、吸血鬼といやつをやっておる。よろしくお願いするぞ」


自己紹介に吸血鬼というワードを入れてきた。

前はあまり推していなかったはずだが。


「素敵な自己紹介でしたね。久しぶりに胸が躍りましたよ」


教諭はキャラがブレ過ぎている。

正直、吸血鬼より自己主張が激しい。


「やはりいたな、隣人! 昨日の風呂と朝は本当に助かった!」


吸血鬼がこちらを凝視してくる。

すぐさま視線を逸らす。

石化とかしないだろうな。


ザワ……

 …ザワ…

  ……ザワ


教室がにわかに沸く。

風呂というワードと朝というワード。

二つがそろうとやけに意味深に聞こえる。


「よっシーが目を逸らしたぞ」

「隣人ってまさか、よっシー?」

「あの、鉄の女よっシーが?

「さすよし」


鉄の女ってなんだよ。

というか、目を逸らさなければよかった。

完全に私が隣人だとバレてしまった。


「よろしくな!」



朝のホームルームが終わると、吸血鬼に女生徒が殺到する。

あの容姿だし今はヘタれていないし、順当だろう。

むしろ、私のほうがどうなっている?


「よっシー、どういう知り合い?」

「隣人ってどういう意味?」

「よっシーはあんなのが趣味なのか!」

「くぅそうぅ、よっシーだけは違うと思っていたのに!」


何故、私の元には男が殺到している。

私は男どもにどんな風にみえていたのだろう。


「よっシーは人気者だね」


かきピーが話しかけてくる。

本名、柿本 ケイ。だから、かきピー。

少し茶色に染まったロングヘア、少し大人びて見える同級生。

いつもと変わらず空気を読まない。

かきピーは前の学校が同じで、いつも馴れ馴れしくしてくる。


「とりあえず、こいつらどうにかしてくれない?」


授業の始まるチャイムとともに男共は散っていった。

朝からこれとは、この先が思いやられる。




授業が終わるチャイムが鳴ると、次は昼休みだった。


「よし、飯を食うぞ! よっシー」


吸血鬼が机を並べてくる。

やはりというか、お約束というか。


「よし、昼食にしよっか、よっシー」


かきピーも机を並べてくる。

お前もか。


「よっシー言うな」


二人に囲まれて、非常に息苦しい。

それに輪をかけて、回りから降り注ぐ好奇の視線が苦しい。

とにかく、吸血鬼は目立つ、その行動一つ一つが視線を集める。

こんな中、机を並べてくるかきピーの空気の読めなさは異常だ。


「ははは、見て驚け! 俺の昼食、メロンパンを!」(ドヤァ!)


吸血鬼が高く掲げたのは、コンビニに売っている市販のメロンパンだ。

確かにびっくりだよ。

吸血鬼のくせに普通すぎる!

しかも、そんなどや顔するほどでもない昼食だよ。


「ウィルって吸血鬼なのにメロンパンなんだ。血とか吸わないの?」


かきピーは動じない。

しかも、聞きたいことをズバッと聞いてくる。


「え? 血なんて飲むわけないだろ?」


吸血鬼が何か言っている。


「大体、血の何がいいんだよ。色は赤いし、鉄棒をした後の手のひらみたいな臭いするし、あと赤いし、あんなもの食い物じゃないな、やっぱり赤いし」


血が嫌いなのはよく伝わった。

後、赤いのが嫌いなのも。


「じゃあ、トマトジュースとかも飲まないんだ」

「あんな赤いもの、飲み物じゃないな。何かもっと別なものだ」


じゃあ、いったいなんなんだよ。

このやり取りにも疲れてきたので、食事を始める。

吸血鬼は言ったとおりメロンパン。

かきピーは親の手作り弁当、卵焼き、ミートボール、ポテトサラダ、たこさんウィンナーと色鮮やか。

私はいつもの塩バターパン。


喉が渇くのが難点だが、いつも野菜ジュースを買ってきている

私にそんな抜かりはない。

野菜ジュースを取り出そうとして手を止める。


今日はを買ってきていた!


駄目だろ! このタイミングで飲むのは!

トマトジュースを取り出そうとした手を元に戻す。

いつも前日に昼食を購入していたことが仇になった。

まさか、こんな空気を読まないことになるとは……。


「ははは、顔色が悪いぞ、よっシー」

「よっシー言うな」


吸血鬼が馴れ馴れしく絡んでくる。


「そういえば、いつもの野菜ジュース飲まないの? よっシー」


やはり、かきピーは空気を読まない。

嫌なことを聞いてくる。


「買い忘れた」

「嘘だ。よっシーがジュースを買い忘れるわけないじゃん」


ここは空気を読め。

何とか話を逸らすことはできないだろうか。

血液嫌いの吸血鬼に視線を向ける。


「ごほっ、ごほっ! み、水」


吸血鬼が咽ている。

メロンパンにまで負けるのか。

どれだけ弱いんだよ。


「ほら、これ飲みな」


ジュースのパックにストローを刺して手渡す。

吸血鬼はジュースをいっきに吸い込む。



あ……。


「おぼぉぉぉぉぉろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」



吸血鬼が血のような赤いものを吐き出しながら、机に突っ伏す。


「何してるの、よっシー!」

「何してるんだ、私ー!」


二人で叫んでいた。


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