第四話 吸血鬼様、案内される
少子化により、全生徒数200人を割る存在を危ぶまれる高校。
普通科のみで、進学校。偏差値も気持ち高い。
部活動も活発ではないし、特筆するべきことは特にない。
葉観高校に吸血鬼が転校してから、ようやく初めての放課後となった。
色々とあったが、まだ登校初日だ。
「これから、ウィル君と一緒に学校を見て回りまーす」
「はっはっはっ! よっシーにかきピー、よろしく頼むぞ」
初登校の吸血鬼のために、校舎案内をしようという話が持ち上がった。
当然、私も含まれている。
わかってた。
もう、逃れられないって。
「よっシー言うな。とはいえ、どこから校舎案内したものか」
そんな学校を案内しろというのだ。
ここはオーソドックスに校舎を時計回りとかそんな順序で案内するのが効率的だ。
無駄足は踏みたくない。
特に吸血鬼のために、これ以上労力を使いたくない。
「ウィル君には
おいおい。
初耳なんだが、その五大不思議とかいうやつ。
なんだか嫌な予感しかしない。
吸血鬼が興味を持ちませんように。
「五大不思議だと! 何打それは! とても面白そうじゃないか! 教えてくれ! かきピー」
はい、興味を持ちました。
これは苦労しそうだ。
「普通は七不思議だけど、どうして五大不思議なの?」
一応突っ込んでおく。
「はい! 第一の不思議! 七不思議ではなく、何故五大不思議なのか! 不思議ですね!」
かきピーの乗りに付いていける気がしない。
しかも、そんなどうでもいいことが数少ない五つのうち一つとか、本気か?
だが、吸血鬼はとてもいい笑顔で喜んでいる。
それで本当にいいのか?
「さあ、時間は有限。 きびきび行きますよ」
「次はどんな不思議なんだ! 早くするのだ、かきピー」
かきピーが戦闘で音頭をとりながら、廊下を進んでいく。
こうなったら付き合うしかない。
「はい! ここが化学室です」
かきピーは今は誰もいない化学室を案内しようとしている。
確かに案内するべき場所だ。
少し不安になったが、きちんと案内できている。
「はい! 第二の不思議! この学校、化学準備室がありません! 不思議ですね!」
確かに!
化学室は壁際にあり、その隣は音楽室になっている。
化学の授業とか色々と道具を使っているはずなのに!
何故こんなこと気付けなかったのか。
というか、実験に使ったあの器具は何処から?
「化学準備室とはなんだ? 説明が欲しいのだが」
受けは悪かった。
かきピーも頬を膨らませてご不満の様子。
「次の不思議を案内しまーす」
かきピーの行動は早い。
だが、校舎内をうろうろと歩き回り、何処を目指しているのか全くわからない。
そして、とある男子生徒の前でかきピーは歩みを止めた。
「こちらが、第三の不思議! 古典的な不良がいる! 今の時代に不思議ですね!」
かきピー、やっぱりもう少し空気を読もう。
学ランに赤いTシャツ、髪型も前方へオーバーハングしている。
いかつい顔をさらに歪ませ、凄い形相で私たちを睨んでいる。
ごめんなさい。こちらが一方的に悪いです。
「彼は
「ほー、体が大きくて強そうではないか。確かに俺たちとは全く違う格好をしているが、そちらも格好いいな!」
お前らは遠慮という言葉を学んで欲しい。
「おい、あんた等、なんか用か?」
「ごめんなさい。人違いでした。貴方の名前を言っていましたが、人間違いです」
学ランの言葉を遮る。
私は吸血鬼とかきピーの首根っこを摑まえると、そのまま引きずって彼の前から逃げ出した。
本当に勘弁してもらいたい。
適当な場所まで来て足を止める。
「かきピー、なんで学校の不思議に特定人物が入っているのかな?」
「不思議だよね、よっシー」
「強そうな奴だったが、別段不思議ではなかったな」
かきピーの眉がピクリと反応したのを見逃さなかった。
これは、かきピーの本気が見えるかもしれない。
「はい! ここが第四の不思議! トイレの洗面所に蛇口が二つしかないのに、鏡が三つある! 不思議ですね!」
彼女はトイレの入り口を指示している。
私が適当に逃げた先が偶然五大不思議と関連があったらしい。
三人が揃って男子トイレに入っていく。
女生徒二人に吸血鬼一人という、よく考えると壮絶な状況だ。
現場を見ると確かにかきピーの言う通りだった。
確かに不思議だが、ただの設計ミス、もしくはそういうデザインかもしれない。
「おおおおおい、よよよよっシー聞いてくれ!」
また情けない声を上げている。
というか、よっシー言うな。
こんなところで一体、何があるというのだろうか。
「かかか鏡! 鏡を見ろ!」
促されたこともあり、鏡を見る。
特に問題があるとは思えない。
ただ……
「俺の姿だけが映っておらぬ! ど、どういう事だ?」
吸血鬼は鏡に映らない。
どうして本人が一番動揺しているのか。
違うよね。
ここはこちらが、吸血鬼の姿が映らないのを怖がるものじゃない?
「大丈夫よ。あんたは映らないのが正しいから。かきピー次は何処を案内する?」
鏡の前で戦慄している吸血鬼を放っておいて、私はかきピーへ案内の続きをするように促す。
後一つで終わりなら早くして欲しい。
校舎の案内は一切できていないが、早く終わらせたい。
「え? もう次はないよ」
あれ?
これって、五大不思議だったはず。
今度は五大不思議なのに四つしか不思議がない不思議! とか言い出しそうだ。
「じゃあ、ここで第五の不思議! なんと、吸血鬼がいる! 不思議ですね!」
かきピーがどや顔をする。
なるほど。
そういうことか。
「お前が作ったのかよ!」
私は叫んでいた。
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