薬師寺の企み3(秘書視点)

 薬師寺様は、本日2度目となる私のリアクションに対して、もう飽きたと言わんばかりに、軽く肩をすぼめると、言葉を続けた。


「考えてみろ、弱小とは言えドワーフと戦争をして勝利した場合に起こるデメリットは多数あるだろ?」


「確かに、他国が黙っていない事でしょうね。 特に獣人共は、争いごとが好きですし、下手に勝利する方が不利益を被る可能性があります。 薬師寺様は、そのこと考慮して今回の事に踏み切ったのですか?」


「それもある。 お前の言うように、攻め込まれたとはいえ、返り討ちにして植民地にしたり必要以上に賠償を要求しては、他国から反感をかう事は目に見えているからな。 だから私は、このまま何事も無かったこととして同盟を結び、綿で首を締め上げるようにジワジワと支配していこうと考えたんだ」


「ですが、それではドワーフ側から暴動が起こるのでは無いですか?」


「それは今回、勝利した場合に限り無い。 そのために色々と根回しや小細工をしたのだが、この部分は深くは説明できん。 お前で勝手に想像しろ、だが、より円滑に物事を進めるためにイレーザに竜也を襲わせたことは失敗だったな、まさか竜也が殺されかけるとは。 仮に竜也が死んでしまったら国が同盟を結ぶことは難しい、もちろん死んでしまったのならば竜也の死を盾にふんだくるだけふんだくるが、それでも割に合わなかっただろう。 椎名には感謝しないとな」


 薬師寺様の言葉を聞いて、思わず耳を疑った。 より円滑に物事を進めるために、このお方は、自分の婚約者までも意図的に危険に、さらしたと、いうのだろうか?


「薬師寺様、今の発言だとイレーザ嬢に菊池様をけしかけさせたように聞こえたのですが?」


「聞き違いではないぞ、そう言ったんだ。 ワザと兵の数を減らし、イレーザを自由にさせたのも竜也にも護衛をつかせないように調整したのも私の指示だからな」


 やはり確信犯だったようだ。 薬師寺様は一体どこまで計算されているのだろうか。


「ですが、流石にやりすぎなのでは? 椎名様の処遇はどうなさるおつもりなのですか?」


 薬師寺様の指示で護衛に付かなかったとしても、椎名様が責任を問われる可能性は高い。 この事に関しては薬師寺様はどうなさるおつもりなのだろうか。


「椎名か……まあ、感謝はするが、当然ながら付き人としての責任は取ってもらう」


「……薬師寺様が、そうなるように仕組んだのにですか?」


「当たり前だろう、私がけしかけたとはいえ、竜也が死にかけた事実には変わりがないのだから、コレを咎めなければ示しがつかん。 それとこれとは別問題だ」


 当然と答える薬師寺様。 普通の神経の持ち主ならば、椎名様に責任をとらせるような真似はしないだろう。 ましてや、それが自分のせいなのだからなおさらだ。

しかし薬師寺様は、責任はきちんと取らせるおつもりらしい、恐らくだが、責任をとらせることで、更なるメリットがあるのだろう。 改めて考え方が根本的に違うと理解し、そしてそのお考えに対し、私は若干の恐怖を感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る