カンカンと鎚を振り下ろす甲高い音が響く。 部屋は武器を鍛えているため熱気で蒸し返っているが、加護の力が働いているため鎚を振り下ろしている男は汗一つかいていない。


「デュノア様、遊びましょう」


 幼い声が無邪気に男の名前を呼ぶ。 同時に鎚を振り下ろす音がピタリと止んだ。


「イレーザ様、いつの間にこの部屋に?」


「つい先ほどですわデュノア様」


「…カギはかけていたはずですが?」


「あんなもの私には無意味ですよ指先一つでチョチョイのチョイです」


「…困ったお人だ」


 そう言いつつも笑顔で対応するデュノアは少しうれしそうにグラスにお茶を注ぎイレーザの前に置く。


「どうぞ、イレーザ様には少し熱いかもしれませんが」


「大丈夫ですわ。 それよりもデュノア様は何故いつも武器を作っているのですか?」


「どうしたんですいきなり?」


「だって武器なんて職人に任せればいいじゃない。 そうすれば私ともっと遊べるのに」


 イレーザが発した言葉は子供ながらの的を射た発言ではある。 だがデュノアはゆっくりと首を振る。


「…お国のためですよイレーザ様、それと、こればかりは他人に任せてはダメなんです。 俺が武器を作らなければ意味が無い」


 デュノアのこの答えに首をかしげるイレーザ。 その様子を見てデュノアは言葉を続ける。


「この国はあまりに小さすぎる。 他の国と一戦交えたら、たちまち滅びてしまうでしょう」


「そんなことないわ、私は強いもの悪い人達なんて叩いて追い出しちゃうんだから」


 イレーザのその答えに笑って答えるデュノア。


「それは頼もしいですね。 ですが備えは必要ですよ、守るべきものを守るために体を鍛え、武器を作る。 それだけでも国を守ることに繋がると俺は考えています」


「難しい話?」


「ええ、そうですね。 とっても難しいです」


「ふーん、じゃあいいや。 それよりもデュノア様、今日は森に行ってみましょうウイルが美味しいリンゴの生る木を見つけたんですって」


 難しい話は終わりと言いたいのかイレーザは無理やり話題を変えた。


「それは楽しみですね。 どちらが美味しいリンゴをとれるか競争しましょう」


「うん!!」

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