テスト明けー5

「支援部隊があるとなると俺の予想よりも本格的な訓練みたいだな、椎名、どれくらいの期間を予定してるんだ?」


俺のこの質問に対して椎名はわずかに考え込み答える。


「おおよそ戦闘自体は1週間ですが、準備作業、撤収作業を含めると10日ほどですかね」


「そんなにか?」


 椎名の言葉に思わず反応してしまう。 学生がする戦争訓練にしては少々きついものがあるのではないだろうか? それが普段座学に興じている生徒ならばなおさらである。


「もちろん、早く終わることもありえます、両軍ともに、敵の一定数の撃破、司令1名に加え大隊長3名、か中隊長10名を撃破し、敵軍の領土の奪取を行えば、期間を待たずとも戦闘訓練は終了します」


「いや、 その数を攻略するのは1週間では不可能だろ」


 パワーバランスが極端に悪く、無能が指揮をとってもその内容で決着がつくことは、まず無いだろう。


「過去に一度だけ、現国王が学生時代に指揮を執った時には5日で終わりましたよ」


「マジで?」


 信じられない功績に対して思わず聞き返す。 八百長ではないかと疑問に思うが、流石に演習の規模が大きいだけに不正を働くとは考えにくい。


 そうなると本当に5日で状況を終わらせたのだろうか? だとすると指揮を執った国王は紛れもない天才だ。 自分で納得して勝手に顔も知らない国王に心の中で称賛を送る。


「今回もそれくらいで終わったりしないかな」


「国王様が指揮した年が特殊だっただけなので、基本的に早く終了する事は無いと考えた方が良いですね」


「なるほどなぁ、ところで椎名。 話は変わるんだけど10日間、俺以外の学生は演習でいないんだろ? 演習期間中は俺は何をするんだ? 休みという事は無いよな?」


「菊池さんは、演習が行われている10日間の間は国王様との交流会です」


 椎名から予想外の答えが返ってきた。王様との謁見ではなく交流会? 何それ初耳なんだけど。


「俺、堅苦しいのは苦手なんだけど」


「それは大丈夫です、私たちもサポートしますし、なにより国王様は厳しいですが、とても思いやりのあるお人です。 菊池さんの記憶喪失の事もすでに知っていらっしゃるので、多少の無礼は目を瞑ってくれるでしょう」


 さりげなく拒絶してはみたが椎名はニコリと笑いつつ俺の言葉を軽く流した。 こちらの状態に配慮してもらえるのは正直ありがたいが、そうじゃない、俺はそんな行事参加したくないんだ。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか椎名は言葉を続ける。


「それに、普通に国王様と生活してもらうだけですので特に問題は無いはずです」


 椎名の言葉を聞いて思わず顔をしかめる。 もう、それは交流会では無い、交流会という名の別の何かだろう。


「それって、何の意味があるんだ? 正直10日も一緒に暮らす意味が分からないんだが」


 10日間王様と一緒に暮らすことに到底、意味があるとは思えない。 加えて確実に神経が磨り減るであろう未来が安易に予想できてしまうので、あまり良い気はしなかった。


 すると椎名は平然と、とんでもないことを口にした。


「将来的に菊池さんと国王様は、一緒になられるのですから、その予行演習のようなものですね」


「えっ?」


 予想もしない椎名の答えに対して、俺は声が上ずって反応することしかできなかった。

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