婚約者について
椎名の発した言葉に、冗談だろ? と喉まで出かけたが、椎名の顔からは、ふざけた様子などは感じられない。 本当なのか? 重要なことをサラッと言われても対応に困る。 つまり王様と俺は婚約しているって事だよな。 それならば王様は男ではなく女という事になる。 だとすると正しい呼び名は女王様ではないのだろうか?
……いや、この際呼び名などは、どうでも良い。 重要なのはそこじゃない。
「王様と俺って婚約してるの?」
そう重要なのはコレだ。 一緒になるという意味は俺の常識だと結婚だが、何しろ今までの常識があまり通用しない、この世界の事だ。 側近になるとか別の意味で一緒になるって言葉を使うのかも――――
「そういえば記憶喪失になってから話していませんでしたね、婚約という認識で正しいですよ」
――――しれないと思っていたのだが、そこはストレートに意味が一緒なのか。
「なるほど……婚約かぁ」
「そんなに嫌なんですか?」
溜息まじりの俺の不満ありありといった態度に対し、不満があるのが不思議でならないといった様子で首をかしげる椎名。
確かに条件は良い。 国王自ら俺をもらってくれるというのだ。 確固たる地位が約束されたようなものなのだから、不満に思う事自体が贅沢というものだろう。
だが男女の関係はそんな簡単な物じゃない、不満があるとすれば心の問題だ。 俺は前世で結婚も彼女もできずに死んでしまった。 まあ、女遊びは多少したが、その分、甘酸っぱい恋愛というものに憧れの様なものを持っている。 そして女遊びをした俺だから断言できるが、体は満たされても心が満たされない。 愛がない結婚生活など互いにストレスがたまるだけで将来的に破局するのがオチだろう。
「いきなりこの人と結婚してくださいと言われてもなぁ。 できれば結婚相手は自分で選びたい」
素直に俺の気持ちを椎名に伝える。 すると椎名は少し驚いた表情を作り、”そうですか”とだけ返答した。
「椎名は、そういった、 感情は理解できない?」
「いえ、そういったことは無いです。 私だっていきなり結婚を前提に付き合う事になった”女性”が現れたら戸惑うでしょうし、菊池さんの感情も理解できます」
……うん、椎名さん? それは前提条件がおかしいのではないだろうか? 俺だって、結婚を前提に付き合うことになった同性の男がいたら戸惑う……というか全力で拒否する。
いや、ちょっと待てよ? 椎名がそのような例えを出すってことは、まさか。
「まさか……王様って男なのか?」
「いえ、女性ですけど? どうしてですか?」
キョトンとした表情で即答する椎名。 当たり前ですよ? といった態度で否定してきたが、話の流れ的に男としか思えなかった気がする。 これを椎名は無意識にするからタチが悪いし、心臓にも悪い。 俺は安堵から思わず胸をなでおろし溜息を吐いた。
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