テスト明けー4

 模擬戦に対する、俺のモチベーションが上がってきたところで椎名が再び言葉を続けた。


「このイベントは成果を上げた者に王が直々に勲章を与え、それが一般生徒だった場合は、特殊科に転入が許されます。 また更に功績が功績が大きかった一握りの学生は騎士クラスへの転入させられるんですよ」


 実力があると判断された者を見極め、引き抜くとは、ますます抜け目がないシステムだな。


「演習かぁ、面白そうだ」


 ニヤリと笑いながら前世の訓練兵時代を思い出す。 日々を怠惰に過ごしている俺には、うってつけのイベントだろう、しかも上手くいけば騎士クラス。


 もうペンを持って、教科書と向き合わなくていいとなると是非とも成果を上げたいところではある。 空いた時間に久しぶりに素振りでもしてみるか。 俺は一層闘志を燃やした所で、椎名が次のような言葉を発した。


「ですが、菊池さんは参加できませんよ」


 言葉の暴力とはこの事だろうと確信を持って言えるほどの衝撃を受けて、俺の野望はあっけなく打ち砕かれた。 当然、俺のテンションは目に見えて急降下。


 納得がいかない俺の気持ちを察してくれたのか椎名は言葉を続ける。


「菊池さんは、数少ない男性です。 演習に参加して命を落としたら目も当てられないでしょう」


「……死人が出るのか」


「毎年出ますよ。 たしか、前回は3名ほどでしたね」


 それほどまでに過酷な訓練なのか、……だが正直、いくら厳しい訓練だったとしても、前世が戦闘訓練漬けの毎日を送っていた俺にとっては、同世代で後れを取るとは思えない。


 しかし椎名が言っていることは、そういう問題では無いのだろう。


「……仕方ない」


 たぎった気持ちはなかなか落ち着けられるものではないが、駄々をこねても見苦しいんだけなので、無理やり感情を押し込める。 仕方なしに勉強に戻ろうとペンを握ったところで石井ちゃんが表情に影を落としていることに気が付いた。


 そういえば椎名は全校生徒と言っていた、石井ちゃんも当然参加するのだろうが、彼女の場合は、イジメを受けていたし暴力的なこのイベントをあまり好ましく思っていないのかもしれないな。


「石井ちゃん、演習が不安?」


「はい…情けない……話ですが…演習の事を考え…ると、体がすくんで…しまいます」


「そうか」


 感情の問題は俺がどうこうできることでもないので、それ以上は俺は何も言えなかった。 だが、俺が心配しているのを感じ取ったのか石井ちゃんは顔を上げて無理やり笑顔を作る。


「私は…補給係……ですので…大丈夫です」


「ああ、後方支援なんだな」


 物資の供給を断つために後方も狙われる可能性もあるが、指揮をとる者がよほどの無能じゃない限りは安全な仕事だ。

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