その後、オチのようなもの
「………なあ、椎名。 これは何なの?」
目の前の霧からは尋常ではない悲鳴や泣き声が聞こえてくる、その霧を指さして隣にいる椎名に尋ねた。
「幻覚魔術の一種ですね、入った人間に悪夢を見せる幻魔の霧です」
「幻術か」
悪夢ならば死ぬことは無いだろうし大丈夫と思いたいが、あの叫び声を聞いて安堵するのは難しいだろう。 そんな考えをする俺をよそに椎名は言葉を続ける
「菊池さんの望みは、誰も傷つかず石井さんをイジメから救うことを望んでいらしたようなので、悪夢を操って石井さんに手出し出来ないようなトラウマを植え付けつつ、強制的に納得させる洗脳に近い特殊な術式を編み込みました」
片手でガッツポーズを作り、キラキラとした表情を作った椎名は、褒めてほしそうにチラチラと、こちらを見てくる。
予想通り全然大丈夫ではなかった。 確かに体を傷つけない幻術に着眼したのは凄いし、褒めてあげたいが、悪夢でもトラウマまで行ったらダメだろ。
「これ……精神崩壊とかしないよな?」
確認のために椎名に聞いてみるが、椎名はそっと視線を逸らし―――
「さて、やることはやりましたし、石井さんを寮に運びましょうか」
―――そして急に話をはぐらかした。
「ちょ、しないよな精神崩壊」
「しま……せんよ? きっと」
「何故に疑問形」
「試したことのない術式なんで……自信はありませんが多分大丈夫だと思います……ギリで」
多分とかギリという言葉は不安でしかない。 胡散臭そうな目を向けると、椎名は意を決したように口を開いた。
「分かりました、もしもこれで精神的に病んでしまう者がでたら私も責任をとって腹を切ります」
「ちょっと待て、何でそうなった」
「菊池さんの期待に答えれなかったからです」
「……もういいよ、そこまで言うのなら椎名を信じるから腹を切るとか言わないでくれ」
普通ならば戯言とスルーするのだが、椎名ならやりかねないから恐ろしい。
この事に関しては追及しないでおこう。 そしてもしも精神的にやってしまった者が出たならば、アフターケアは医師である木乃美さんに丸投げしてしまおう。 自分の中でそのように結論付ける。
「とりあえずは、放置でいいのか?」
「はい、霧が晴れないのは、未だ全員にトラウマが植え付けられていないという事なので問題ないです」
トラウマ植え付けるまでがワンセットなんだな、 問題大ありだろ!! ……と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「じゃあアイツらはこのまま放置して寮に案内してくれ今日はそこに泊まるんだろ?」
半ば投げやりに石井ちゃんを抱えて椎名に案内するように促す。
「はい」
それを椎名は元気の良い返事で答えた。
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