なんだかんだで大団円
結果的に言うと、その後は上手くいった。 不良グループは石井ちゃんにちょっかいを出すことは無くなったし、石井ちゃんも二日後に目を覚まして今では元気に学校に通えるようになった。 だが、問題が一つだけある
「椎名!! 今日こそお前をぶっ倒す!!」
その問題というのがコレである。気合の入った声とともに教室に入ってきた女子はこの前、椎名にやられてトラウマを植え付けられた、不良の一人のはずなのだが。 何故か彼女は、トラウマを植え付けられたのに、逃げ回る事はせず椎名に毎日のように決闘を申し込みに来る。
「またアナタですか天王寺さん」
最初は、椎名のトラウマ製造術が失敗したのではと思ったのだが、椎名が視界に入るとカチカチと歯を鳴らして、怯えた表情を見せるのでトラウマ自体は無事? に植え付けられているようだ。
「今日こそお前を倒して、 悪夢を払拭してやる!!」
「何のことです?」
「オマエを見るだけで恐怖で体が委縮するんだよ、 この感情を払拭するために私はお前を倒す」
聴いてなるほどと納得した。 何故彼女は椎名に喧嘩を売るのか疑問に思っていたが、植え付けられたトラウマを克服したいという事なのだろう。
「死んでも知りませんよ?」
「ヒッ」
「冗談です」
しれっと脅しを入れてくるあたり、椎名は意外といじめっ子の素質があるのかもしれない。 少しだけだが椎名は楽しんでいるように見えた。 微笑ましく観戦していたいが、教室で派手に暴れるとクラスメイトに迷惑が掛かる。 椎名にそれとなく言っておこう。
「やるなら手短に被害は最小限にしろよ」
「分かりました」
短く返事を返した椎名は指をパチンと鳴らした。
「消えた!! どこだ椎名 アタイと戦え!!」
俺には椎名が見えているので、アレは一部対象のみの認識阻害の魔術か何かだろうな、あまりに高度過ぎて確証は持てないけれど。
惑う天王寺に、ツカツカと椎名は歩み寄ると天王寺の額に人差し指でふれる。
「自分の教室に帰って、大人しく授業を受けなさい」
「あたいのきょうしつにかえってじゅぎょうをうけなきゃ」
言葉を復唱した天王寺は、焦点が定まっておらずフラフラと教室を出て行った。
最初のうちは見たことのない魔術に戸惑っていたが、今は”それは何?”と椎名に聞く気すら起こらない。 何をやっても、まあ椎名だし、で納得してしまうくらいに俺の感覚もマヒしてきた。
「むっ、もう昼休みが終わってしまいますね、では私は保健室に行ってきます」
「ああ、天王寺に寝込みを襲われるなよ」
「以前一度ありましたが問題なかったですよ」
すでにあったのかよ。
「それよりも菊池さんもうすぐテストらしいですが対策はされていますか」
「あー、一応今日からテスト期間まで石井ちゃんの勉強会があるから大丈夫……と思いたい」
本当なら石井ちゃんが目覚めてすぐにでも勉強を教えてもらいたかったのだが、石井ちゃん本人の勉強をおろそかにしてはいけないだろうと思い少し距離を置いていた。
だが、解説者無しで俺が勉強を理解できるはずもなく、背に腹は代えられず昨日の放課後に頼んでみたところ石井ちゃんは快く応じてくれたのだ。
「まさか、レクチャーしてくれる人がいなくなるだけであそこまで分からなくなるとは思わなかった」
「石井さんが教えてくれるのなら、ひとまずは大丈夫そうですね」
「油断はできないけどな」
あの日以来の初めての勉強会の日だ、しっかりと学ばないとな。
昼休み終了の鐘がなると決意を新たに、机から教科書とノートを引っ張り出して俺は授業にのぞんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます