イジメ ※暴力的表現が含まれています

 目を閉じているはずなのに目の前には十数人の女子に取り囲まれた風景が飛び込んできた。


「菊池に守ってもらうとか小賢しい真似すんなよ」


 視界が反転して泣き声が聞こえる、どうやら石井ちゃんは蹲って泣いているらしい


「泣けば済むと思ってるのか?」


「マジで殺すぞクソアマ」


 視界に入って確認できるだけで人数は十数人、疲れたら交代して代わる代わる暴力を振るう。


 ……酷すぎる。 石井の泣き声とその声を遮るほどの罵声、体を痛めつける音しか聞こえない。


 そんな中、理不尽な暴力を振るっている一人が突然呟く


「なあ、菊池もイジメない」


 突然の言葉に暴力がピタリと止んで周囲がどよめく。


「いや、菊池さんはマズイだろ流石に」


「でもさ、アイツがいるから手が出せないって少し癪じゃない?」


「いや、そうだけどさ流石に男はマズイって」


 この世界ではどんなバカでも男の希少価値は理解している。 もちろんそれはここにいる不良達だって例外ではない。 この場にいる周囲の人間全てが冷ややかな反応を示したことが何よりの証拠である。


 だがそんな反応も発案者である不良はフンと鼻を鳴らして一蹴する。


「考えてもみろ、私たちは舐められているんだぜ?」


「菊池さんが何かしてきたのかよ?」


「いや、菊池が舐めた態度をとった訳じゃない、舐めてるのは周囲の連中だよ」


「あ? 意味が分からねぇーぞ」


「考えてもみろよ、私たちがイジメていた奴が、菊池のお気に入りになったってだけでアタイらは石井に手出しができていないんだぜ? このまま行けばアタイらにビビっていた人間が菊池に助けを求めて今度はアタイらが日陰者として扱われかねないだろ。 事実、クラスの奴ら何人かは、アタイの言う事を聞かなくなってきた。 アンタらだって心当たりがあるんじゃないのか?」


 皆、大小なり心当たりがあるのか周囲の不良たちは黙り込む。 その光景を好機と見たのか不良は再び口を開いた。


「玩具である石井を取られてウチらのメンツは丸つぶれだ、これを打開する方法は一つ、菊池を従えるしかねぇ」


「そんなこと言ったって、奴は男だぞ? もし何かあった時は国が動く、そんなリスクは負えないだろ」


「大丈夫だって、最初は軽くシメて徐々に石井みたいに逆らえないようにしようぜ、そうすればアタイらの天下よ」


 この手の連中は本当に頭が弱い、天下とかバカじゃないのか?


  俺は怒りを通り越し哀れみに似た感情を抱いていると、消えてしましそうな細い声が聞こえた。


「………めです」


「ん?」


 視線を声の先へ向けると石井ちゃんが血だらけの体を引きずって不良達の目の前に立つ。


「きくち……さ…んは……だめ」


「あ? 何でテメーに指図受けなきゃいけないんだ?」


 逆上した不良がより激しく暴力を振るう、だが石井ちゃんは必死に祈願した


「おねが…しま……きく…さん……てを…ださない……ください」


 口の中が切れていて上手くしゃべれないのか声は掠れ聞き取りづらい。 石井ちゃんは、俺が同じイジメの対象にならないように必死に声を出し不良達に頼み込んでいる。


「うるせぇ、黙れクズ!!」


「おね……します…きく…ち……ください」


 頭に血が上った不良はより激しく殴り続けるが、石井ちゃんは涙を流しながら懇願を続ける。


「あのひと……だけは…て……ださ」


 暴力は止まない。


「……おねが……し…す」


 声が徐々に小さくなるが石井は懇願し続ける。


「きく……さん…だけ」


 倒れて立てなくなっても石井は言葉を発する


「……おね…が………い」


 聞き逃しそうな細い声を発した瞬間、唐突に、視界がブラックアウトして目に光が差す、恐らくここで石井ちゃんのの意識が途切れたのだろう。

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