初めての学校ー3

「俺に対してはいい子なんだけれどな」


 走っていった椎名の背中を見送りながら、俯き黙り込む彼女の手を引きながら歩き出す。 それは椎名に怯えている彼女をとりあえずは引き離し場所を変えた方が落ち着けるだろうと思っての行動だった。


「ここなら、落ち着いて話せるかな?」


 しばらく無言で引っ張られていた彼女を中庭のベンチに座らせ、途中で買った飲み物を女の子に渡す。


 そこで初めて女の子の顔をまじまじと見た。


 ……カワイイ系だな。


 前髪で片目は隠れているものの、それでも顔立ちは整っていると分かる。 身長はかなり低く、顔も体も小さくて小動物のようで可愛らしい。


「ありがとう……ございます」


 俺が、ジーとみていたのが耐え切れなくなったのか、顔を少し赤らめながら彼女の方から口を開いた。


「気にするなよ、俺は菊池竜也、君の名前は?」


「……石井…霞」


「そうか、石井ちゃんは趣味とかってある」


 目の前の彼女は、こてんと首をかしげている。 表情からは何でそんな事聞くのだろうといった感情が読み取れた。 勿論、趣味話などきっかけに過ぎない、先ほどはいきなり暴力を振るった相手を聞き出そうとして警戒されたので、まずは彼女自身が興味のある話で場を和ませつつ徐々に核心へと話を進めていこうと考えたからだ。 そんな俺の完璧な計画に彼女が返した言葉が―――


「……勉強が好き…です」


 ―――予想外すぎるものだった。


 ……俺の世界では女の子の趣味といえば手芸や、料理、甘味巡りと相場が決まっていたんだけどなぁ。 この世界ではそんなものが趣味の女性もいるのか。 この世界に来て思ったが俺の持っている常識が、あまりにも当てはまることが少ない。


「……勉強ねぇ」


 勉強という言葉に思わず顔をしかめる。 それは今日初めて学んだ機械とか電気とかの事だろうか、もしそうなら魅力を理解するのが難しいし、和むような会話には不向きな気がする。


「……勉強は嫌いで…すか?」


「正直に言うと好きではない、でも来月テストがあるらしくてさ、流石に赤点だけは回避しないと・・ちなみに石井ちゃんはどれぐらい勉強できるの?」


「一応……学年トップ…です」


「教えてください!!」


 両手を掴み懇願する。 石井さんは一瞬驚いた表情を浮かべるがそんなのは無視する。 冗談抜きで指導してくれる人がいないと来月のテストで赤点は回避できないだろう。


「わっ…わたしで……良ければ」


 俺のそんな必死さが伝わったのか、石井さんは快く了承してくれた。

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