考察ー3(説明回なので読み飛ばし推奨)


「菊池さん、 おまたせしました」


 物思いにふけっていると再びドアが勢いよく開き、 先ほど出て行った女性が、別の女性を引き連れて戻ってきた。 今度は白衣を着た女性が近寄ってくる。


 この人も、すごく綺麗だった。 身長は先ほどの女性よりやや高く髪は肩に掛かる程度で色は淡い青色、そして、かけている眼鏡は彼女の大人の魅力をより高めていた。


「菊池君、 記憶が混乱しているらしいけれど私の名前はわかるかしら」

 

 思わず”分かるわけがないだろう”と喉まで出てきた言葉を飲み込み、顎に手を当て一応考えていますよとポーズをとって答える。


「……分かりません」


「そう、じゃあ彼女の名前は?」


 俺が目覚めた事を自分の事のように喜んでいた女性を指さし質問される。

 

「いえ、分かりません」


「そう、じゃあ菊池君が覚えていることで良いので教えてくれるかしら?」


 この質問にはポーズではなく本当にわずかに考え込んだ。 どのように回答することが正解だろうか? 覚えている事の回答、この質問でボロが出て、人違いだと気が付かれると、この場をすぐさま追い出されるだろう、それだけは避けなければならない。


「すいません、本当に何も覚えていないんです。 キクチと言われましたが馴染みのある自分の名前でさえ違和感を覚えるほどこの体には違和感しかありません。 何か思い出すきっかけになるかもしれないので俺のことも含めて、あなた達のことも教えてもらえますか?」


 相手も記憶の混乱と言っているので、この場はその言葉に便乗させてもらうとしよう。 こう答えておけば、キクチという人間とズレた行動をとっても、多少は目を瞑ってもらえるはずだろうし、加えてキクチが何者なのかの説明を求めたのも、キクチという人間を偽る上では重要になってくるはずだ


 そう考えると短時間で出た返しとしては、この返答はなかなかに良いのではないだろうか。


 「分かったわ、ではまず私たちの自己紹介をするわね。私の名前は木乃美 紗枝(このみ さえ)あなた専属の医師よ」


 専属医師ときたか・・そうなると、キクチなる人物が身分が高いのはほぼ確定だな。 やはり当面は黙っておいた方が良い。


 「次にあなたの近くで看病をしていたこの子だけど」


 「椎名 茉莉(しいな まつり)私はアナタ専属の魔術師です」


 初対面の時の笑顔とは違い、こちらに鋭い視線を向けている。 初めの頃の彼女との表情の変化に少しだけ戸惑いを覚えた。 寝起き直後の笑顔はなんだったのだろうか、もしかして今のやり取りで俺がキクチ本人じゃないと感づいてしまたのだろうか。 椎名さんの視線に思わず肝を冷やしつつも、表面上は、あくまでポーカフェイスを装い質問する。


 「魔術師とは? ……何をするのか教えてもらってもいいですか」


 「菊池さんに呪詛が降りかかった時や外傷を負ったときに癒しを行うのが私の役目ですね」


 説明を聞く限りの彼女の立ち位置は、医者では対応出来ない事態が起こった時の予備要員というところだろうか? 険しい表情はそのままだが一応、丁寧口調で接してくるので俺がキクチでは無いと、バレてはいないようで少しだけホッとする。


「あとは、ここにはいないけれど直接、菊池君と関わりの無い人達も説明はした方が良い?」


椎名さんの睨むような表情とは対極的にニコニコとした笑顔で接してくる木乃美さんが訪ねてきた。


「いえ、記憶が混乱しているので今日のところはアナタ達二人で結構です、それよりも自分がどういった経緯でここにいるのかと、自分自身の事などを教えてもらえると嬉しいのですが。」


 とりあえず、二名の自己紹介だけで、キクチという人間が高い身分と確定したので他の情報がほしい。 このへんで紹介はやめてもらって他の事を教えてもらった方が良いだろう。


「分かったわ、それじゃあまず菊池君の自身の事を話そうと思うけれど、 菊池君は自分の事をどこまで覚えてるの? 些細な事でも良いから覚えがあったら教えてくれないかな?」


「何も覚えていません」


 短くハッキリとした声で答えた。 こういう事は少しでも覚えているといったら必ずボロが出る。 そのため最初からボロの出しようのないように、覚えていることは何もないと言った方がキクチという人物を偽る上では好都合だろう。


「そう……じゃあ簡単な説明になるけれどそれでいいかしら?」


 その言葉に俺は頷く、 実際に説明してくれと頼んだのは俺なので断る理由がない。


「アナタの名前は菊池竜也(きくち りゅうや) 年は17歳で現在、宮本高校の2年生。 そしてこの世界に近親種族の男性も含めた5人しかいない男性の一人よ」


「……えっ?」


 その言葉を聞いて、思わず間抜けな声が出た。

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