考察ー4(説明回なので読み飛ばし推奨)
木乃美さんは、何と言った、17歳という年齢や聞いたことのない高校生なるワードも気にはなるが、それ以上に無視できない言葉が出てきた。
この国ではなく世界に5人しかいない男性の一人? ドラゴンのような強力な魔物の数が増えて世界の人口自体が極端に減ってしまったとしても男が5人という数はあまりにも少なすぎる。
「あの、男性が5人しかいないとおっしゃりましたが女性はどのくらいいるんですか?」
「女性の人口は10億人ぐらいだったと思うわ、あと人としての男性は菊池さん1人だけです。 他4名は近親種族になります」
何それ? もう理解不能だ、 兵士になって様々な町や村を行き来して中には女性が多いい村などもあったが、それでもここまでバカげた男女比ではなかったぞ。
いや、それよりも先ほどから言っている近親種族ってなんだ。 人じゃないのか?
「木乃美さん近親種族とは?」
「近親種族は、人間に近い種族でエルフ、ドワーフ、獣人の事です」
木乃美さんが、さも当然といった口調で答える中、俺は内心かなり動揺していた。 伝承や物語の中でしか聞いたことない種族が、この世界では実際に存在しているのか? しかも3系統も。若干興奮を覚える俺を差し置いて、木乃美さんは言葉を続ける。
「まあ、近親種族は、各種族で国を構えているので、菊池さんが会う機会はあまり、ないかもしれませんが」
その言葉に少しだけ肩を落とす。 エルフにドワーフ、獣人といえば騎士物語には必ずと言っていいほど出てくる主要の種族であり、いわゆる空想上の種族である。
俺としては、ガキの頃から憧れていたファンタジー世界の住人と出会える可能性が低いと告げられた事で情けないが大人ながら落胆してしまった。 だが落胆したままではいられれないので、すぐに気持ちを切り替える。
「でも近親種族を入れても男性が5人って、おかしくないですか? なにか原因でもあるんでしょうか?」
とりあえず聞かなければならない疑問を木乃美さんに投げかける。
真っ先に考えたのはこの世界における国のあり方である。
5人という男性は各国の代表、つまりは王のように一つしか席のないポストとして扱われ、指定を受けた者以外の男が生まれたら殺されているのでは? と考えたが、すぐにバカらしいと考え却下す。 もし仮に国が一人の男しか置かないような方針をとっているとすると死んでしまった場合は、その国の男性がいなくなる。
それはつまりはその国の緩やかな死だ。 流石にそんな考え無しな事は国としては行わないだろう。
「はるか昔になるので記録は僅かですが魔王と呼ばれる魔物の王がこの世界に存在しました。 そして勇者と呼ばれる男が魔王を滅ぼしたとあります」
「魔王?」
真剣な表情で胡散臭い話をする木乃美さん。 にわかには信じがたいので微妙な表情を作った俺を無視して木乃美さんは言葉を続けた。
「そうです、そしてとどめを刺された魔王は絶命する前に二つの魔法を放ちました。
一つは人間の男が生まれにくくなる種の魔法、もう一つは生まれてきた男が成人まで生きられない魔法、それらが作用して男性の人口が減り続け今に至ります」
魔王と勇者、そういった類の話ならば俺の暮らしていた国にも物語としていくつかあるが、驚くべきは空想ではなく魔王と呼ばれる存在が実際にいたという事実だろう。
何の冗談だと笑い飛ばしたくなるが目の前で説明をする木乃美さんは、ふざけている様子は一切ない、おそらくは本当なのだろう。
先ほどから話を聞くたびに俺の知っている世界とは全く違う場所だという事を自覚させられる。
……だがそうなると一つの問題が出てくる。
「今までの話が本当だとすると、男って基本は成人は迎えられないんですよね? じゃあ俺はどうして生きているんですか?」
俺は周りからは年のくせに若いと言われていたが、それでも外見は20代半ばにしか見えない。 その時点で菊池という人物とは違うと判断できると思うのだが、
何故この人たちは成人していないガキと俺を間違えているのだろうか?
「……どういう事でしょうか?」
「いや、どう見ても俺は20代にしか見えないだろ?」
「……なるほど、椎名、確かに菊池君は混乱していますね。 呪いの類ではないんですか?」
「それはない、記憶の喪失でもしかしたらと思い先ほどから体内を呪詛で侵されていないか探知しているんだが、菊池さんから呪いの類は感知できないんだ。 魔物に襲われたことによる一時的な記憶障害なんじゃないかと思ってアンタを呼んだんだけど違うのか?」
先ほどから睨まれていると感じていた椎名さんの視線は、体内の魔力感知に集中していたからか。
「その可能性も考慮したんだけど、受け答えがハッキリしすぎているのよね。 魔物に襲われた事が原因なら、普通は受け答えに詰まるはず。 こんなにスムーズに会話を続ける事はできないわ」
「二人とも俺は正常ですからね」
何か話がややこしくなってきたので二人の会話に割って入る。
「俺からすれば木乃美さん達がおかしく感じるんですけど」
「むっ、それは心外ね。 椎名、鏡はある」
「魔術で作っていいか」
「構わないわ」
魔術で鏡を作る? 何を言っているんだ? 疑問に思った俺を無視して彼女はパチンと指を鳴らす。
「なっ!?」
「作ったぞ」
「ありがとう椎名、さて菊池君。 どうぞ鏡の前に」
彼女の目の前には巨大な一枚板の鏡が出現していた。 一瞬で現れた鏡に俺は思わず驚きの声をあげたが、彼女たちは特に驚いた様子もなく俺に鏡の前に立つように催促してくる。 俺は意味の分からないまま、言われるがままに鏡の前に立った。
「さあ、菊池君。 自分の姿を見て。 私には成人したようにはとても見えないんだけれど自分自身は何歳ぐらいに見えるのかしら?」
「……あれ?」
そこに映し出されている姿は、乱暴に跳ねた黒髪に鋭く吊り上がった目、大まかな部分は変わらない。顔、体格、背丈。 どれもが俺の良く知っている俺である。 だが同時に俺ではないような違和感が生じる。 言っていることは矛盾しているのは分かっている。 だが鏡の中の俺と、俺の知っている俺の矛盾点。それは―――。
「……10代の頃の俺じゃないか」
言葉に出したように違和感を感じた原因は、兵士になりたての頃の俺にそっくりだった事が原因だろう。 何故、若返ってしまったのだろうかと真剣に悩んだところで分かるわけがない。
「ちょっと待って、マジで待って。 これはどういうことだ? 何がどうして俺は若返ってるんだ?」
現状が理解できずに、たまらず狼狽える。 瞬間的に様々な可能性が脳裏を過るがどれも現状を受け入れるには足りない。
「菊池君、 落ち着いてください」
木乃美さんが目に見えて取り乱した俺の肩を掴んで叫んだ。 先ほどまでの落ち着いた雰囲気とは違い大声を出した彼女のおかげで少しながら落ち着きを取り戻す。
「……すいません、少し動揺したみたいです」
「いえ、 無理もないわ、 私こそごめんなさい」
掴んでいた肩から手を離すと木乃美さんは一歩引いて謝罪の言葉を口にした。
「少し、一人にしてもらってもいいですか?」
今は考える時間と気持ちを整理するための時間がほしいので懇願する。
その言葉に対し木乃美さんは申し訳なさそうに首を横に振った。
「それはできないわね、 大丈夫だと思うけれど、また魔物が襲ってくる可能性もあるわ。 混乱して一人になりたい気持ちも分かるけどせめて椎名はそばに置いてあげて」
「……分かりました」
確かに彼女達からすれば俺は護衛対象なのだから当然だろう。 それでも護衛役を一人しか付けなかったのは彼女なりの譲歩だったのではないだろうか。
「それじゃあ椎名、菊池君をよろしく頼むわね」
黙って頷く椎名を確認すると木乃美さんが部屋から出ていく。 バタンとドアが閉まるのを確認してとりあえず俺はベッドに横になった
「菊池さん、大丈夫ですか?」
さきほどの一連の会話で不安を感じたのだろうか、椎名さんが心配そうな表情を浮かべ話しかけてきた。
「大丈夫、少し気持ちを整理しようと思っただけだから」
「分かりました、菊池さんが大丈夫というのでしたら私は何も言いません」
「ありがとう椎名さん、 助かるよ」
「私の事は椎名でいいです」
「えっ?」
それは少し拗ねたような物言いだった。 カッコイイ女性が上目遣いで拗ねる仕草をする。 それだけで女の耐性があまりない俺にはズキューンと胸を撃ち抜かれたような衝撃を受ける。
「いつも椎名と呼んでいたじゃないですか、」
「そうだったかな…椎名?」
恥ずかしい気持ちを抑えて絞り出した俺の間の抜けた声に満足そうに頷くと椎名は部屋の隅にある椅子に座った。 アレが所定の位置なのだろうか?
ベットに再び横になり、 この世界の俺(菊池)について考えを巡らせる。
先ほどの会話の流れで恐らく昔からこの体は存在した事は予想が出来る、ならば何らかの方法で体ごとこの世界に来た可能性はほぼゼロだ。 だとすると菊池という人間が魔物に襲われた時に魂が喰われて空っぽの体に俺の魂が入ったと考えるのが自然ではないだろうか。 その時点で悪霊やアンデットの類となって魔物化しそうなものだがよほど体の相性が良かったのだろうな俺は自我があるし体も異常が無い。
とにかく帰ろうにも帰れない。 少なくともこれからはこの世界で生きていくのは決定事項であり、菊池竜也という新しい名前を早く受け入れていかなければならない。 恐らく俺の住んでいた場所とは常識や文化も違うんだろうが、とりあえず今は寝よう。
自分の中の疑問に終止符を打つと重い瞼を閉じて夢の世界へと旅立った。
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