第9話 俺のスキル値がおかしいらしい


 提出した用紙に、アイーシャが真剣な面持ちで目を通す。

 すると、『じとっ』とした目で俺の方に用紙を差し返した。


「あの~。お気持ちはわかりますが、スキル値に見栄を張るのはよくありませんよ? しかも、400って……。今どき子供の『冒険者ごっこ』でももうちょっとリアルな数値つけますよ」

「いや、そう言われましても……。本当なんだけど」


 ぽりぽりと頬を掻く。


「……まぁ、いいでしょう。〈スキル判定〉で嘘がバレて後悔するのは自分ですから」


 アイーシャがため息混じりに書類を手元に戻す。

 問答無用で嘘つき呼ばわりとは、ひどいもんだ。


「レベル1からスタートする方は久しぶりですね。あと、この『手持ちの召喚獣』ですが……ちょっと聞いたことのない魔獣です。その他に召喚できるものは?」

「いや、それだけだ」


 俺が言うと、アイーシャは難しそうな顔をした。


「なるほど……。ちょっと、審査の方に時間がかかるかも知れません。大体、一週間くらい。審査が通り次第、スキル判定、資格試験となりますが――」

「ちょっと待って、そんな待つの!?」

「そうですね。あなたの場合、レベルが1な上にジョブが召喚師なので……。通る可能性も五分五分かと」


 おいおい、どこまで冷遇されてんだよ召喚師。

 ってーか、マズいぞ。すでに一文無しなんだ。一週間も待ってたら餓死してしまう。


「あっ! そうだ……!」


 俺はミアから貰っていた紹介状の存在を思い出して、ポーチを漁った。


「……あった! これ、貰ってきてるんだけど!」


 俺が渡したメモ紙を不審そうに受け取ったアイーシャだったが、その内容を呼むと表情を明るくした。


「あら、ミアさんの……。『何だか面白そうなヤツだから、試験受けさせてみてよ』。ふふ。相変わらずですね」


 アイーシャはおっとりとした笑みを浮かべると、冒険者登録用紙とメモを同じファイルにしまった。


「ミアさんの紹介状があれば、大丈夫だと思いますよ。明日か今日の夜にでも試験が受けられると思いますが、どうされますか?」

「出来れば今日中に受けたいな。切実に」

「かしこまりました。では、さっそくスキル判定を行いましょう」


 アイーシャはそう言うと、俺をギルド施設の四階へと案内した。


 階段で四階に上がると、その先には一枚の大きな扉が立ち塞がっていた。

 アイーシャが解錠して、扉を重そうに開ける。

 中は殺風景な広い空間だった。扉は他に無い。

 四階はこの空間だけのためにあるようだ。

 床も壁も天井も、真っ白に磨かれた石で作られている。

 そのフロアの中心に、俺の背丈ほどの真っ黒な石碑が置かれていた。

 黒大理石のようにつるつるとした光沢の美しい石碑だ。


「あれが、〈観察〉のスキル100に相当する効果を持った『宣託石』です。さぁ、表面に手を触れてください」


 アイーシャに促されるまま、石碑に触れる。

 ひんやりと冷たい。

 アイーシャは、隣で記入用紙とファイルを片手に待機している。

 すると、石碑の表面に文字がぼんやりと浮かび上がった。

 紛うことなき、俺のスキル値だ。

 召喚術も400のまま。

 それを見て、俺はホッと息をついた。


「おお、良かった。もしかしたら俺が間違ってるんじゃないかと、ちょっと心配してたんだ。……アイーシャ?」


 数値が出たのに何の反応も無いので横を振り返ると、アイーシャが目を皿のようにして絶句していた。


「おーい?」


 俺が顔の前で手を振ると、アイーシャは『ギギギ』と軋む音が聞こえてきそうな動作で俺の顔を見た。


「な……なんですか、これ? あれ? 私、夢見てるのかしら。何かの間違い……? でも、『宣託石』が間違った表示をするなんて、歴史的にも聞いたことが……」

「あ。おい、消えちゃうぞ」


 ぶつぶつとアイーシャが呟く間に、宣託石に表示された文字が薄くなり始めた。


「ああっ! 待って!」


 アイーシャが、宣託石の文字を慌てて記入用紙に書き写していく。


「で、あの……俺は合格……?」

「分かりません……。とにかくこの数値は前代未聞です! 私ひとりでは、判断出来ません。少しこの場で待っていてください」


 アイーシャはそう言うと、バタバタと部屋を出ていった。


『……なんか落ち着きのない人だね』

「お前が言うなお前が」


 それから、リヴィアと下らない会話をしつつ数十分待った気がする。

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