第8話 冒険者登録

   ◆


 冒険者になるためには登録が必要らしい。

 詳しいことは、とりあえず冒険者ギルドに行けば分かるだろう。

 冒険者ギルドは、街を十字に貫く大通りを東に進んだ突き当りにあった。


「これか。結構デカいな」


 5階建ての大きな建物だ。敷地も広い。

 俺は「よし」と気合を入れると、開け放たれた正面玄関をくぐった。

 内部は冒険者とギルドの職員で賑わっている。

 金属の鎧を装備した剣士。漆黒のローブを纏った魔術師。

 背丈ほどもありそうな大弓を背負ったハンターもいる。

 ギルドの職員は女性が多い。白黒のメイド服に似た制服を着ている。

 俺は冒険者たちの間を縫うように奥のカウンターへ向かった。

 真新しい服に身を包んだ俺に、周囲から物珍しそうな視線が集まる。


「『新規登録受付』……あれか」


 カウンターの一番奥だ。


「あの、冒険者の登録をしたいんですけど……」


 受付にいた女性職員に声を掛ける。

 歳のほどは十代後半くらいだろうか。

 おっとりとした微笑を浮かべた、可愛らしい人だ。

 ふっくらとした身体つきに、艷やかな黒髪。

 胸のネームプレートには〈アイーシャ〉と書かれている。


「こんにちは。登録はこの街が初めてですか?」


 にっこりとした笑顔に、先ほどまでの緊張感がほぐれる。


「はい。すみません、何も分からないので教えてもらえると嬉しいんですが……」

「じゃあ、簡単に説明させて頂きますね」


 アイーシャは紙とペンを取り出すと、読みやすい文字で概要を書き連ねていった。


「まず、冒険者にはランクがあります。Fから始まって一番上のAです。初登録の方はFから始まることになります。冒険者はギルドに来た依頼をクリアして報酬をもらいますが、ランクによって受けられる依頼の難易度と報酬が変わってきます」


 アイーシャが紙にA~Fのアルファベットを書いて、Aのところには『すごい』。Fのところには『新人さん』と書き込む。

 なんだか真剣味が若干足りない気がするが、まあいいか。

 ここまではゲームなんかでもよくあるシステムだ。


「そして、A級冒険者の上に『探索者』と言うランクが存在します。これは、大陸奥地や海を超えた先の未踏地帯を探索することを許されたクラスです。『探索者』になるには色々な条件が必要なんですが、大半の冒険者さんにはあまり関係がありませんので割愛しますね。この街のギルドには一人もいませんし」


 そう言ってアイーシャは紙に『探索者』と書いて『超すごい!』と書き加えた。


「この大陸は、そんなに未踏の地域が多いんですか?」

「ええ。グランクレフ大陸がこうありますと――」


 アイーシャが簡単な地図を描いてくれる。

 ちょうどオーストラリアに似た形の大陸を、四等分に区切る。

 それぞれを〈テノン王国〉、〈アルトー〉、〈プラソノ神聖国〉、〈バッソ連邦〉の四つで収めているという形だ。

 俺たちがいるのは、この左下の〈テノン王国〉だな。

「それぞれの領地で市街、交通、治安の整備が行き渡っているのはおよそ30%と言ったところでしょう。それ以外は、未だ『古代魔帝国』の遺跡が眠る危険地帯となっています」

 さらに海を超えた他の大陸は、口伝のレベルでしか情報が残っていないという。

 うーむ。思ったよりも修羅の世界のようだ。

 まぁ、とりあえず俺にはあまり関係ないかな。


「色々とありがとう。じゃあ、登録させてもらいたいんだけど」

「かしこまりました。では、登録料の方が5千ガルドになりますね」

「うっ。お金かかるんですか」

「……? ええ」


 5千。ちょうど全財産だ。

 しかし、ここでまごついても仕方がない。

 俺は仕方なく残りの銀貨5枚をトレイの上に並べた。


「背水の陣で冒険者か……」


 ずいぶん軽くなったポーチに心細さを感じつつ遠い目をしていると、アイーシャが一枚の紙切れを差し出した。


「では、こちらにご記入をお願いしますね」


 『冒険者登録用紙』と書かれたその用紙には、色々と項目がある。

 俺はその紙を受け取って、後ろの記入用のテーブルに移動した。



【〈冒険者登録用紙〉

 名前:コージ

 Lv:1

 現ジョブ:召喚師

 所持スキル:召喚術 400 魔獣語 80 幻獣語 80 神獣語 100 観察 40

 得意魔術:なし

 召喚師の場合は手持ち召喚獣:   】



 ある程度まで埋めた俺は、ここで「うーん」と唸った。

 俺自身が魔術を使えるわけではないので得意魔術は『なし』でいいと思うが、『手持ちの召喚獣』をどう書くべきか……。

 まさか【リヴァイアサン】と書くわけにもいかないだろ。

 討伐されたくないし。

 俺は小声でリヴィアに相談した。


「――かくかくしかじかなんだけど、どうしたらいい?」

『じゃあ、適当に〈擬装〉をいじっとくから、〈リヴィア〉って書いといていいよ~』


 軽いノリの返事に不安を覚えるが、従う以外ない。


【召喚師の場合は手持ちの召喚獣:リヴィア】


 と書き込んで、俺はペンを置いた。

 怒られないよな、これ。

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