第6話 コルネット魔術品店

  ◆


 大通りから裏道に入ると、急に道幅が狭くなる。

 人通りは少なく、ジメッとした空気に先日の悪夢を思い出した。

 でもまぁ、今日はリヴィアを召喚中だし死ぬようなことは無いだろう。

 でもちょっと待てよ……。もし、リヴィアが戦闘する時はあの海神に戻らなくちゃいけないとしたら……。


「この街は消し飛ぶかもしれないな」

「なになに? どうしたのー?」


 ポツリと呟いた俺の言葉に、リヴィアが反応する。


「いや、何でもないよ。と、『コルネット魔術品店』……ここか」


 同時に目的の店の前に到着した。

 古びたアパルトメントの一階。ぼろぼろの出入り口の周りには、店内から溢れ出した魔術用具が乱雑に並べられている。

 扉は木製の重厚なもので、中の様子は伺えない。


「うーむ」


 なんというか非常に入りづらい……のだが、俺は意を決して扉のノブに手をかけた。


「すいませーん……」


 薄暗い店内は、積み上げられたアイテムと棚で見通しが悪い。

 お香なのか独特の香りが漂っていた。

 軽く一歩踏み入れる。

 と、同時に顔面に何かが飛んできた。


「わぶっ! なんだ!?」


 もふもふとした感触。

 顔に張り付いたそれを引き剥がして見てみると、白い毛皮の小動物だった。

 フェレットに似ている。サイズ感はちょっと小さめか。

 深い緑色の不思議な瞳をしている。


「こらー! どこいったの!? 戻りなさーい!」


 すると、店の奥から小さな女の子がパタパタと走ってきた。

 その子が近づくと、俺の手の上にいた動物が「ぴいっ」と鳴いてその子に飛び移った。


「よしよし。……あれ? お客さんですか? いらっしゃいませ」


 少女が俺たちの姿を見て慌ててペコリとお辞儀をした。

 ボブカットの黒髪に丸メガネ。服の上からエプロンをかけている。

 その顔立ちは可愛らしく整っているが、漂うのは幼さよりも知的な印象だった。

 背の低さから子供かと思ったが、そうでもないようだ。


「キミが店員さん?」

「はい。店主のコルネットです」


 コルネットは俺の顔と後ろについてきていたリヴィアを交互に見ると、


「あ、召喚師の方ですね。申し訳ありませんが、召喚獣は店内ではカード化しておいてください」


 すまなそうにそう言った。


「えー」


 リヴィアがつまらなそうに頬を膨らませる。

 俺はいきなりジョブを当てられたことに驚いて、眼を丸くしていた。


「な、何で分かったんだ?」

「私の〈観察〉のスキルをもってすれば、ステータスを覗くくらい朝飯前です。スキル値までは分かりませんけどね」


 コルネットが得意気に胸を張って言う。

 なるほど、この子も〈観察〉持ちなのか。


「しかし、人型で会話が出来る召喚獣は私も初めてお目にかかります……。私の〈観察〉でもステータスが確認できないということは、〈擬装〉のスキルを使っていますね? 更に言うと、〈擬装〉を使えるほど高レベルな召喚獣を使役する召喚師が〈レベル1〉なわけありません。こちらも〈擬装〉ですね?」


 好奇心に輝くコルネットの瞳がリヴィアと俺を見つめる。

 いや、俺は正真正銘のレベル1なんだが……。

 俺は面倒になる前にリヴィアをカード化することにした。


「リヴィア、また後でな」

「むー。はーい」


 渋々頷くリヴィアをカード化して、懐に入れる。


「あ、もうちょっとで解析出来たかも知れないのに……。仕方ありませんね。召喚獣の情報は召喚師の生命線ですから」


 コルネットが残念そうに言う。

 俺ははぐらかすように本題を切り出した。


「あの……。冒険者志望なんですけど、召喚師に必要な物って何かありますか? 例えば……杖とか、呪文書とか? すいません、何も分からなくて」

「なるほど、新米さんでしたか」


 コルネットが『うんうん』と頷く。


「召喚師には杖も本もいりませんよ。まず必要なのは『マジック・バインダー』ですね」

「バインダー……?」

「そう。こちらにどうぞ」


 コルネットはそう言うと、積み上げられたアイテムを掻き分けるように店の奥に入っていった。

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