その拾弐:求めてやまぬ者達の反照
「おじょーちゃんを二対一で虐めるったぁ行儀のよろしくねえこったなぁ~~~オイ。この
華憮羅は大声を張り上げて敵を挑発した。
人の居ない真夜中、フェンスに囲まれたビルの屋上に立っているのは、
それともう一人、階下まで続く大穴から這う這うの体で這い上がってきたスーツ姿の男──
「なんて……酷いやつだ。いきなり上空から殴りつけてくるなんて」
「なんとでも言え。その酷ささえも時にはカッコよさになっちまうのがこのオレっつーわけだからな!」
「何言ってるかさっぱり分からないんですけど」
背後から聞こえる加賀利の突っ込みを無視しつつ、華憮羅はファイティングポーズを取った。
指を握りこんだ硬い拳。それは飛尾樹の鋭い手刀とは対を為す突きの構え。
短いジャブを前方に繰り出しシャドーボクシングに
背後の少女に手出しはさせぬとばかりに仁王立ち、大穴を介して相対する二人の男。見た目の印象だけに焦点を絞るなら、誰もが華憮羅の勝利を予想するだろう。
しかしことこれは
「僕は貴方みたいに暴力に訴える奴が一番嫌いなんだ。野蛮なんだ。ムカつくんだ。だから、もし君が今後尻尾をまいて逃げたとしても、僕は必ず殺すことにするよ」
「うっせ誰が逃げっかバーカ。調べは付いてんだぜ、お前らが
それを聞いた飛尾樹は舌打ち、そして直後華憮羅に新たな動き!
華憮羅が虚空に放った右ストレートから、突如現れた巨大な拳の
「あっそすごいね」
対する飛尾樹は跳躍! 向かってくる拳の
無論それを黙って見ている華憮羅ではない、続けてアッパーの形で身体を動かし頭上へ向けて拳の
しかし飛尾樹は手刀を振り下ろすとその
が、その頬にねじ込まれる華憮羅本人の拳によって、飛尾樹の落下は受け止められた!
「ショーリューケンってなあ!!」
『グリズリー・テンプル』によって現れる巨大な拳は、華憮羅の一挙一動を再現する念動力の塊!
即ち、華憮羅がアッパーを繰り出せば、本人のアッパーと念動力のアッパー、その二つが時間差で一度に襲い掛かるのだ!
超絶の威力と抜群のリーチ、そして隙を生じぬ二段構え! 華憮羅の誇る肉体言語は常人のそれとはわけが違う!
もんどりうって転倒した飛尾樹! すかさず華憮羅はそれを踏みつけにかかる! 飛尾樹はごろごろと転がってその足を避けるも、続く念動力の足もまた飛尾樹に狙いをつけているのだ!
しかし念動力の足が飛尾樹を踏み潰すこと叶わず! 千津留の投げた
「ちっ、こそばゆいわッ!」
忘れてはいけない! 元来敵は千津留と飛尾樹の二人組である! 謎の不調によりダウンしている加賀利を庇う華憮羅は、不利な戦いを強いられているのだ!
「もう、貴方も一人で無茶してるじゃない! そういうのダメなんだからね! めっ!」
「大丈夫だって。これ以上君を心配させるような真似はしないさ……ふーっ。しかし華憮羅君、今僕を靴履いた足で踏み潰そうとしただろ? アリとか、セミとかを潰すみたいにさあ。僕を格下と見て踏みに行ったんだよな?」
「あ? 知るかんなもん。だがまあ~~~結果的に下には見ちまってるかもしはれねえな。何せ俺は
足元の
親指の腹で自らを指さすその姿は、根拠のない自信に満ち溢れている!
先ほど足に苦無が突き刺さったにも関わらず、まったく支障のない様子で
事実、大した怪我ではないのだ! 華憮羅にとって多少の無茶など日常茶飯事! その程度で行動不能になることなど在り得ないのだから!
意味不明のスケール感に白樺加賀利はもうどうにでもなーれという表情を隠さない! 突然現れた男二人が声高らかに口論する図は一般的女子高生の頭で処理するには情報量が多すぎるのだ!
「そう。君も僕を馬鹿にするんだ──」
その底冷えのする声を聴いた瞬間、華憮羅の脳裏を嫌な想像がよぎった。
無論
ということは、目の前の二人は相当にウマが合う──同じような価値観を抱いているのではないか?
そしてそれはつまり、彼らの能力は“似通っている”のではないか?
つまるところ──飛尾樹の能力の神髄もまた
「僕はねえ。根に持つタイプなんだ……子供の頃、さんざんに虐められてねえ。みんな僕と遊びたがらなくってねえ。
唐突な自分語りをし始めた飛尾樹。
知らねーよそんなことと言わんばかりに拳を振り上げた華憮羅だが、不意に身体の動きが鈍り始める。
これは一体どうしたことだろうか? 唐突に彼の身体の節々が軋み、悲鳴を上げているのだ!
「だから僕は、この
「てめえ、何か仕込んだな」
頭がずきずきと痛み
明らかに尋常の事態ではない! 華憮羅は飛尾樹が能力を行使したと確信し、潤んだ瞳で睨みつけた!
肩で息を始めた華憮羅の様子を見て、飛尾樹はそっとほくそ笑んだ。
華憮羅を見上げるその顔は、恨み骨髄に達した後ろ暗い感情に染まっている!
決して不細工ではない、取り立てて特徴のない普通の顔。しかし恩讐に染まったその表情は、邪悪な笑みで歪んでいた!
「そう、僕の能力のトリガーは感情。僕のじゃない。君の感情さ。君達が僕を『気持ち悪い』とか『相容れない』とか『えんがちょ』とか思うたびに、君達の肉体は発熱して弱っていく──これが僕の能力。
「ろ、ろくでもねえーーー!!」
その能力の開示によって、華憮羅の体調は更に悪化していく!
ネガティブ極まる彼の能力は、然してまったく恐ろしい! 疑似的に病を再現するその能力は、ただ『そう』と思っただけで発動する!
あくまで自己の改善ではなく、相手への復讐のみを考えて生きてきた怨念の塊! それこそが倉増飛尾樹である!
「ふふん、すごいでしょ。彼ってば、簡単に敵を
わずかな間に千津留は華憮羅の目を盗み、加賀利の元へ肉薄していた!
加賀利もまた倉増飛尾樹の能力の影響下に有り、その身は衰弱の一途を辿っている!
出血を伴う加賀利の病状は、華憮羅にも増して深刻であった!
「趣味が悪い」
「そうかしら? 私は彼が好きよ。彼の能力が好きよ。彼の姿勢が好きよ。彼の仕草が好きよ。彼の顔が好きよ。彼の声が好きよ。彼の愛が好きよ。そして、そんな自分が好きよ」
「趣味が悪い」
「あっそ。でも、貴女も少しは私に期待してたんでしょ?」
不明瞭な返事だった。
息絶え絶えになりながらも精一杯
頭上にハテナを浮かべる加賀利を馬鹿にしたように見下ろす千津留の顔は、
「答え合わせしてあげる。私の能力のトリガーも感情。私のじゃなくて貴女の感情。貴女が私をちょっとでも好ましく、期待を抱いたりした時点で、貴女はとっくに私の
「趣味悪ッ!! 何がデリカシーよそんなのクソもないでしょあんたばかじゃないの──ううっ」
より一層の嫌悪感を抱いたおかげで、加賀利はこみあげてくる嘔吐感を
先ほどの夜、遠く電柱の上に立つ人影を見た時点で、加賀利は既に彼女の術中に
──こんな夜更けにあんな場所に立つ人は
ちらとだけ内心に抱いたその期待によって、加賀利はあっさり
恐るべき二人組である! 嫌悪を煽り肉体を支配する飛尾樹と、好意を煽り精神を支配する千津留!
片一方が拒絶されようと片一方がそれを受け入れる、絶対無敵の
決して素の能力は高くない、けれども一撃必殺の妙技を有する奇術師。それこそが
「うるさいよ。僕たちがどんな気持ちで子供時代を過ごしたのか知りもしないくせに。僕は僕を虐める人を絶対に許さないんだ。黙って
「こ、こんなところで惚けるんじゃないの!」
事実、この二人は相思相愛であった!
飛尾樹の能力は、僅かにでも彼に不快感を感じた時点で発病する! ならば一向にその兆候を見せぬ立花千津留は、文字通り彼にぞっこんなのだ!
一方の飛尾樹もまた、千津留の能力を知りながら自ら望んで傍に寄り添っている! 即ち、彼女の異能によって認識を操られても一向に構わないという信頼の表れ!
二人は紛れもなく小指が赤い糸で繋がってるコンビである!
「……可夢偉の野郎がいなくて良かったな。嫉妬でワケわからんことになりそーだアイツ」
二本の足で立ちながらもどこか姿勢の覚束ない華憮羅は、眼前の敵、飛尾樹を見据えて気合を入れなおした。
しかしその挙動はいかにも頼りない。顔色は悪く、腕は震えていて、瞳は眠たげに閉じかけていた。
「とりあえずインフルエンザくらいのだるさを喰らわせてあげたよ。頭痛、鼻水、せき、寒気、腹痛とか嘔吐感──しんどいだろ。本気を出せばノロウイルスくらいの症状は出してやれるんだけど、さすがにしないよ。可哀想だからね。僕は深刻になりすぎない程度の引き際を知ってるんだ」
どの口が言うか、と返事をする労力さえ惜しい。
強固な精神を保つ自己中心的な者ほど、
しかし、肉体の不調は精神の不調をも呼び起こす。弱り切った肉体では、
戦いの高揚によるランナーズ・ハイならいざ知らず、
華憮羅は身体の防衛機能に抗い、必死に己の中の闘志を揺り起こしているのだ! 水上では優雅な
「私達は仲間が欲しいの。一緒に世の中の理不尽に抗ってくれるな・か・ま。
「でも、僕らを拒絶するんだったら要らないや。僕らは寂しがりやだけど、それ以上に偏食家だからね。イエスマンや舎弟が欲しいんだよ。僕らは弱くて情けないからね。だから、
「だから、同調しないなら貴方達はいらない!」
「今ここで無残に死んでいけ!」
飛尾樹の手刀が、千津留の苦無が、月明りを反射してきらりと光る!
弱った獲物を仕留めるは狩人の鉄則! 異端狩りの刃が今、振り下ろされた!
「──それだけか。
果たして──二つの刃は受け止められた!
二人に分身した白樺加賀利、彼女が手にする刀『
千津留と飛尾樹の瞳が驚愕に染まる! 千津留と鍔迫り合っていた加賀利の姿が露に消えた!
如何なる絡繰りか!? 先ほどまで病に臥せ倒れこんでいた加賀利は、
「どこまでもせせこましい連中ね。付き合ってあげて損したわ」
「馬鹿な、何故君は自由に動ける!? その身では立ち上がることさえしんどい筈!」
「できるわよそのくらい。だって今の私は、風神なんだから」
由来の知れぬ病を運び込む邪悪な風──人々はそれを指して『
『
暴風を渦巻き、
そうと
加賀利はかつて風神へ捧げられた儀式を元に、己が身を
医学の発達していなかった時代、病を
その名を『
「原因不明の病気はみんな風邪。邪悪であろうと風には過ぎず、ならば吹き払うはお茶の子さいさい──私医学薬学とか詳しくないから、そういうことにさせてもらうわ」
「インフルエンザっつってんだろ!」
「私健康優良児だったから細かい違いとか知らないのよ。どっちもうどん食って寝てれば治るでしょ」
「人の痛みの分からない奴だな!」
「うっさい病歴の有無だけでマウント取ってくんな!」
「無知を装って理論武装する奴なんかに言われたくない!」
無理解を演じることであらゆる病気を『風邪』という単一のカテゴリに押し込めた加賀利の在り方は、現代科学に中指を突き立てているに等しい!
しかし、そうと信じ込むことで加賀利はあらゆる病苦の根絶に成功した!
『病は気から』その
口論はやがて怒号の応酬に代わり、加賀利の刀と飛尾樹の手刀が打ち合いを始める!
加賀利の刀裁きは高速の御業、しかしその隙間を縫って差し込まれる飛尾樹の手刀もまた苛烈!
先ほど『グリズリー・テンプル』の拳をも両断してみせた斬撃は、加賀利の有する業物に一歩も劣ってはいない!
しかしいかに鋭く強靭な
「そうとも、僕は二つの
「あーうっさい壁にでも喋ってろ!」
キンキンと金属同士がぶつかる音を立てながら、飛尾樹の手刀は『
両腕で刀を握って振りかぶる加賀利に対し、剣舞のように両腕を振るう飛尾樹はさしずめ短刀の二刀流!
リーチの差を補って余りある速度と手数が加賀利に襲い掛かり、二人の剣戟が
「ぬんッ!!」
一方の華憮羅もまた、病を振り払い戦線復帰!
己が指を両肩の付け根に勢い良く突き刺すと、首をゴキゴキと鳴らし元気よく立ち上がる!
「
出自の怪しい技術を用いて体力を取り戻した華憮羅は、ずんずんと音を立てながら歩き二人の元へ向かう!
その前に立ち塞がるは侍女服姿の立花千津留! 両の手に
「オイやめろ、こう見えてオレはレディ~ファ~ストを心掛けてんだ。殴らせるような手間を取らせるんじゃねーやい」
「知ったことじゃない!」
そして飛び上がった千津留は、なんと中空で衣装を切り裂き下着を露わにしながら華憮羅へ迫る!
流石に面食らった華憮羅、快進撃を止め一歩
千津留は己が痴態を気にも留めず、両手の
「『スリープシープ・パレード』──少しでも助平心のある男なら、貴方もこれでおしまいねっ!」
期待、信用、共感、発情──微かでも好意を抱いた瞬間発動する
それは千津留流の必殺の構え! 如何なる相手であろうと
数多の
──が!
「華憮羅マグナム!!」
目論見は失敗に終わり、千津留の身体は宙空を舞った!
華憮羅が放った渾身のストレートは急接近する千津留にぴったりクリーンヒット!
直撃を受けた千津留は華憮羅の背後に弾き飛ばされ、頭から地面に墜落! 笑う膝を抑えながら立ち上がる彼女の顔は驚愕の色に染まっていた!
「かはっ──、ばかな、私の『スリープシープ・パレード』が通用しないはずがっ。まさか貴方イン、」
「なワケねーだろ。さっきの懇切丁寧な解説はちゃーんと聞いといたからな。今の俺にその手の
「め、メチャクチャ言うな! 人体にそんな都合の良い機能があるわけないでしょ!」
「うるせー論理破綻はお互い様だろ! てめーの身体は知らねーが、俺の身体には予防のツボがあるんだよ!!」
「私と飛尾樹の能力のは実体験からなるトラウマが由来なの、貴方みたいに無から設定を生やすのとは訳が違うの! デタラメに後付けを増やすんじゃないーーっ!!」
「だから言ってんだろ、俺が強え理由なんてたった一つだっつうの! それはこの俺様が、重明華憮羅様だからだァーーーッッ!!!」
重ね重ねの自画自賛による強烈な自己認識!
言わば
華憮羅は一重に勝利のみを夢見る! 己が負けるという未来を
その圧倒的な自意識は世界を侵食し、常識を塗り替える!
そう、重明華憮羅は──
──オレは、主観で世界を仰ぎ見る!
この場の主役は紛れもなくオレ! ならば辿る道筋は当然決まっている!
ヒーローの華憮羅様はかわい子ちゃんの助けに現れ適度にピンチになりつつも最後は敵をカッコよく倒しました、まる。それで全てだ!
主役が姑息な毒程度で負けるとかありえねえ! 実際にやっちまったら
だからオレは全てを打ち壊し正義の予定調和を手に入れる! それはこのオレが華憮羅だからだ!!
メアリー・スー、デウス・エクス・マキナ、マクガフィン、脚本演出設定考証日程調整監督プロンプター他諸々、その全てがオレであり、オレの夢でありオレの舞台だ!
何故なら俺の勝利を疑うものは、俺の世界には一人もいない!!
それこそがオレが行う世界への
『グリズリー・テンプル』、その真価はオレの活躍を約束する栄光!
その真の名は、『ハンズ・オブ・グローリー』!!!
「
「く、くそ体育会系ーーーっ!!!」
「オレに感づかれた時点で、テメェらはどうしようもなく敗けだァァァーーーーーッ!!!!」
「何言ってんのわけわかんない頭おかしいんじゃないの!?」
「狂人上等! そのくらいのほうがハクが付くってなぁ!!」
ヘラクレスしかりシグムンドしかりスサノオしかり、英雄はなにがしかのキ印エピソードを持っているものだ。神話の豪傑も現代の英雄もそのへんは変わらない。ならばオレにもその程度のエピソードはあってしかるべきだ。相対した敵を恐れ
「というわけで喰らいやがれ今必殺の華憮羅ファントム!!」
「ちょっ待っ、」
そんなワケで女をボコにする描写を長々するのもつまらんので(俺は紳士なので)手短に必殺のストレートを放ってメイド服女をもう一回車田吹っ飛びさせた。背後で人間が墜落する音が聞こえたが命に別状はない。KОゴングがどこかから鳴り響く。カンカンカン。オレは勝った。スイーツ。
さて残りは病気野郎だが、向こうは向こうで何やらイイ勝負をしているようだ。風の嬢ちゃんは嬢ちゃんで頭に血が上っているっぽいし、こっからはデキる先輩キャラとして嬢ちゃんの健闘を湛えることとしよう。
オレの勝利は確定した。というわけで視点を元に戻す。重明華憮羅はクールに去るぜ。
「『
『
横薙ぎに振るった刀から飛び出した
まったくの無動作で発動する『
往復するように一帯を通過した
「まだやる?」
「まだだとも!」
瞬間、加賀利の直下より迫る刃! 加賀利は危うくも身をとっさに引いて紙一重で攻撃を回避、スカートの端が音を立てて切り裂かれた!
見れば飛尾樹は裸足を大きく掲げている! その艶やかな足先は月明りに照らされ鈍く輝いていた!
その刃の名は足刀! 飛尾樹の能力『リジッド・パラダイス』は、手刀のみではなく足刀をも鋭い刃物へと変貌させたのだ!
その足裁きの見事なこと! 回し蹴り要領でで次々繰り出される足刀横蹴りは、加賀利を的確に窮地へ追い込んでいた! 手刀より長いリーチ、そして体重を乗せて振り回される足刀の威力はまさに絶大!
加賀利の細腕は決して屈強ではない! もしも
「『
しかしそんな彼の戦闘スタイルにこそ付け入る隙はあると見込んだ加賀利、刃先を飛尾樹へ向け竜巻の如き暴風を放つ!
丁度飛び蹴りの構えとなっていた飛尾樹は、風力に抗えず成すすべなく吹き飛ばされていく!
風にあおられてフェンスを突き破り、マンションの下へと落下していく飛尾樹! 近所の夜景から見るに、数十mはくだらない高層ビルの上である! 落下すれば命はあるまい!
加賀利は飛尾樹の姿が消えたことを確認すると、ほうっと胸を撫で下ろした。
「驚いたよ。そんな真似もできるんだね──君も
しかしその直後、飛尾樹は平然とビルの外壁から再び現れたのである!
彼は鋭い刃と化した足を壁面に突き刺し、再度戦いの舞台である屋上までよじ登ってきたのだ!
再度刀を構えなおし、飛尾樹と相対する加賀利! こうなれば直接その身を切り裂くか、あるいは足も届かぬほどの高度から突き落とす他あるまい!
「づっ、い」
しかし、その覚悟を打ち壊す突然の激痛が加賀利を襲う!
口内の肉が
「無学な君でも知ってるくらいに有名な病気を喰らわせてあげたよ。老若男女全てを襲い、世界全土に
「あんた最低ほんっと最っ低!!」
あらゆる病を全て風邪扱いして片付けた加賀利だが、こと口内を支配する歯痛に対してその認識を当てはめる事ができない!
幼少期より刷り込まれた虫歯へのイメージを脳裏から取り払うことができないのだ!
その隙に飛尾樹はすかさず攻撃を加えていく! 歯の根が合わず動きに精彩を欠く加賀利は、敵の猛攻を凌ぎ切るのに手いっぱいであり現状を打破する手段を見失っていた!
元よりただでさえ現状の彼女はいっぱいいっぱいなのだ!
僅か一日の間に蓄積されたストレスはとうに彼女の許容量を超え──そしてついに、加賀利の堪忍袋の緒が切れた!
「ああああほんっっっとムカつく本当ろくでもない奴らなんだから、もうどうなっても知らないからね『
そして加賀利は刀をでたらめに振り回した!
その度に放たれる
手足の刃を駆使して迫る
さらに、弾かれあらぬ方向へと飛んで行った
必殺の切れ味を誇る
攻守の構図は瞬く間に逆転した! 猪武者の如く無茶な攻勢に出た加賀利のゴリ押しが周囲一帯を犠牲にしながら飛尾樹の命を削っていく!
「くっ、自ら進んで破壊活動を行うだなんてやっぱり君は愚かだな! 一般人に
「うるさい元はと言えばあんたみたいに被害者ぶって他人に理解がないのがいるからこじれるんでしょ人の気を知らないのはどっちだっつー話なのよ潔く自首しろそれか死ね!!」
「君それはヘイトスピーチだぞ!!」
「弱者の立場を笠に着るなお客様根性野郎が!! 第一さっきまだやるか聞いたのにまだやるって答えたのあんたじゃん都合よく手のひら返してんじゃないわよばーか!!」
「言ってはならんことを──」
そして度重なる斬撃によって切り取られた床が陥没し、二人は階下へと落下する!
いや、落下したのは飛尾樹のみである! 加賀利は落下の直前に跳躍を行い、瓦礫の中に沈んだ飛尾樹を堂々と見下ろしていた!
「『
そして眼下へ向けて暴風を解き放つ!
風圧に潰され身動きの取れない飛尾樹と風の推進力によって滞空を続ける加賀利の構図は、この上なく明確に二人の上下関係を表している!
「分かり合えない人も居ますそういう人とは無理に分かり合わなくて良いお互いのパーソナルスペースを侵害しないのも大事だよねそれで解決はいおしまい、それが分からない分からず屋は死ね!!」
「二枚舌にも程があるだろう!!」
「非暴力不服従なんてめんどくさいことやってられっかってのよ!!」
「そういう強引な言い分が
「あーもううっさいうっさい私はあんたのママでも先生でも無いの人生相談がしたいなら他を当たって!」
「それでも権力者の娘かああっ!!」
瞬間、加賀利の
家族からの干渉に
虎の尾を踏んでしまった飛尾樹は、さらなる風圧によって全身の骨を砕かれていく!
「結っ……局本音はそれか、適当に殴る相手が欲しかっただけ!?」
「ぐっ……う、鬱憤を晴らすなんてどこの誰でもやっている事だ! 権力者は弱者をいたぶるが、僕達のような弱者はお前たちみたいな強者を羨んで妬むしかない!」
「何言ってんの馬鹿じゃないのあんたが殴る蹴るしてた相手は年下の女子高生でしょ十分弱い相手を選んでるじゃない! そもそも二人がかりで襲い掛かってるし、そのうえ権力者本人じゃなくてその娘とかどこまでも性根が腐りきってるのね!!」
「都合、よく弱者の立場を笠に着るな! お前も同じ穴の
「うっさいばーかムカつくのよ死ね!!!」
加賀利は刀身を脇に構え、暴風の推進力によって急降下!
憎悪の目線を浴びせる飛尾樹の元へ流星の如く降り立ち、そのまま首を掻っ切った!
「さすがの華憮羅もそれには引くわ」
そして一連の口論を見つめていた華憮羅は、呆れたような表情で呟いた。
あれ、オレなんか常識人枠になってない? よくねーぞこの傾向。俺はもっと派手な主役でなきゃいけないんだって!
---------------------------------------------------
「あースッキリした」
ごっそり抜け落ちた屋上から這い上がりフェンスに座り込む加賀利は、無表情で頬を抑えて安堵の息をついていた。
その横に腰掛ける華憮羅はいつの間にやら倒した千津留を米俵のように抱え、加賀利の様子が落ち着くのをじっと待っている。
明日の朝にはこの大惨事もニュースとして報道されるのだろう。もちろん、
「早いうちにここを離れたほうがいいですよね」
「よくわかってんじゃねえか。だがまあチョイと待ってな。直に迎えが来る」
出し抜けに話しかけた加賀利に対し、何でもないように答える華憮羅。
彼は偶然ここを通りがかった訳ではない。加賀利が学校に休暇届を出したという連絡を聞き届け、彼女の安否を確かめに来たのだ。
今は行方不明といえど、
そう語る華憮羅の前で加賀利は渋い顔をした。その過保護な境遇は彼女の望むところではないが、それによって今回の危機を脱したのも確かである。
無下にするわけにもいくまい。どれほど怪しい大人であっても。
「ていうか、本当に
「さらっと失礼な事言うなお前。まあ秘密組織だし身分証明できるものもあんまりねぇけど──この正義に燃える瞳を見て確信しねえか?」
「いまいち」
「そっかー」
露骨にしょんぼりする華憮羅だった。
加賀利は露骨に華憮羅を警戒しているが、それも無理からぬことだろう。
何しろ先ほど
とはいえ特に強力な
「ま、何はともあれ無事で何よりだっぜ。お前さんが総帥の娘だからとかすげえ
「それはどうも。その、背負ってる
「無論よ。まあ尋問はするだろうが」
「優しいんですね」
「正義だからな」
正義。華憮羅がそう口にした直後、それを聞いた加賀利の顔が引きつった。
「私はさっきあの人を殺しました。軽蔑します?」
「いや別に。正当防衛としては成立するだろう。何事も時と場合による。一元にあれだこれだと定義づけるなんてこたぁできっこねえからな。……何の
「そうですか」
正義、正義とは何だろう。加賀利は脳内でその単語を
姉、白樺
世の中は簡単な善悪で割り切れないということくらい加賀利も知っている。では彼らの言う正義とは、果たして誰にとっての『正当な義』なのだろう。
果たして彼らは誰を救い、誰を活かし、そして誰を殺すのだろうか。
斜に構えた目線で物事を見る加賀利。彼女はそんな穿ったものの視方をする自分でさえも冷めた眼差しで見つめていた。
やがて、静寂を切り裂く轟音が響き始めた。
ヘリのローターが空気を切り裂く音。目線を上げると、映画やドラマでしか見たことないような
「お、ようやく来たな」
かつて決別した
それを砕くには果たしてどれだけの困難が立ちはだかるのだろうか。
加賀利は遥か彼方の夢の実現へ向けて、今ようやく一歩を踏み出したのだった。
「ようこそ
---------------------------------------------------
禍「ぷんつくぷんつくぱやっぱー。というわけでなぜなにスバルの時間です!」
可「わー。あっなぜなになんですね。すっかりこのコーナーの重鎮と化した品陶可夢偉です。苗字書いたの久々」
禍「ちょっと加賀利様も華憮羅様もめちゃくちゃじゃないです? かたや言葉遊び込みの山盛り能力にかたや主人公補正バリバリに受けまくる能力とか、チートものですよチートもの。異世界転生でチート生活ですよ」
可「お前も大概だよ。いよいよ俺の肩身が狭くなるでしょ。バットマンのロビンでももうちょいなんかできるぞ。雑に
禍「さらっと最強クラスを要求するなあこの可夢偉様。そういう遠慮がなさそうででもならないかな止まりの謙虚なところが素敵ですっ」
可「お前は傷口を抉ってんのそれとも慰めてんの? 前者だろうな」
禍「しくしく。信用がない。でも傷心のままに彷徨っていた可夢偉様がよくやく再開した花芽智様もまた心に傷を負っていて傷を舐め合う道化芝居に陥るお二人も尊くありません?」
可「頼むから黙っててくれ。地球が超新星爆発するまででいいから」
禍「まっ、いけず」
可「お前と喋ってるとどんどん最大HPが減るんだよそれはもうじわじわと。んじゃお便り行きましょうね」
『この物語はどのようにして執筆しているのでしょうか? 入念なプロットがあるようには思えませんが、それはそれとしてある程度の骨組みがあるのか、即興で作られているのかが気になります』
可「ナチュラルに失礼なこと書く奴だな」
禍「基本ノリと勢いなので後付けは山ほどありますよ。基本的に1話先のことは考えてないです」
可「知ってたよ。およそのプロットもないんだよ。オゾン層はもうないんだよ」
禍「基本続きって書きながら考えてるんで……なので支離滅裂なので。シリメツレツなので。セツナサレンサなので。オーダーメイドなので」
可「風と風邪がどうこうってネタ温めてた?」
禍「いえ全然。その場その場の勢いです。」
可「まあ勢いがなきゃああはならないよな華憮羅先輩……」
禍「ゴリ押し熱血を書きたいときはゴリゴリの熱血曲をBGMにするのがおすすめですよっ。炎の転校生とか」
可「あれは誰だ!?」
禍「誰だ!?」
可「おれだ!!」
禍「あっでも前回はちょっとだけ骨組み考えましたよ! 加賀利様の前に出てきた敵から彼女を庇うようにカッコよく現れる可夢偉様、次回に続く!みたいな」
可「俺出てねーけど!?」
禍「途中で華憮羅様になりましたね。なんででしょう」
可「今んとこ出番少なめだったからとかじゃないですか。というかこの話のメイン所って誰なわけ?」
禍「えーっ、それは白樺姉妹のお二人と我々と華憮羅様の五人ですよ。たぶん」
可「たぶんと来たか……」
禍「位置的に重要? になりそうな人は苗字が『し』で始まって名前が『か』で始まるんですよ。だからどうってわけでもないんですけど」
可「なんで『し』と『か』なんだよ」
禍「さあ……」
可「さあて」
禍「まあこの先どうするかも考えてないんですけどね。四大神翼、じゃなくて
可「こら!」
禍「ちゃんとネタを取ってあるのは四天王、じゃなくって
可「待ってお前のネタってなに?」
禍「それはひみつひみつ ひみつのアッコちゃんな禁則事項です☆」
可「じゃあ言うなよ!」
禍「だってだって だってだってなんですもの!」
可「今回やたら歌ネタ多くないすか。どうでもいいけど」
禍「もうどうでもいいから今日は朝まで踊りたい?」
可「別に……(沢尻エリカ)」
禍「じゃあこの辺で本日はお別れです。また次回!」
可「毎回後書きでやたら文字数稼ぐのやめない? だからどうってこともないんだけどさ」
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