その拾弐:求めてやまぬ者達の反照

「おじょーちゃんを二対一で虐めるったぁ行儀のよろしくねえこったなぁ~~~オイ。この重明しげあき華憮羅かぶら様が成敗してやるから覚悟しやがれよこのドサンピン野郎ォーーー」


 華憮羅は大声を張り上げて敵を挑発した。

 人の居ない真夜中、フェンスに囲まれたビルの屋上に立っているのは、立花たちばな千津留ちづる白樺しらかば加賀利かがり、そして突然の闖入者ちんにゅうしゃこと重明しげあき華憮羅かぶら

 それともう一人、階下まで続く大穴から這う這うの体で這い上がってきたスーツ姿の男──倉増くらます飛尾樹ひびきの四人である。


「なんて……酷いやつだ。いきなり上空から殴りつけてくるなんて」


「なんとでも言え。その酷ささえも時にはカッコよさになっちまうのがこのオレっつーわけだからな!」


「何言ってるかさっぱり分からないんですけど」


 背後から聞こえる加賀利の突っ込みを無視しつつ、華憮羅はファイティングポーズを取った。

 指を握りこんだ硬い拳。それは飛尾樹の鋭い手刀とは対を為す突きの構え。

 短いジャブを前方に繰り出しシャドーボクシングにきょうじる華憮羅は、線の細い飛尾樹とは対照的にいかにも喧嘩慣れした様子だ。

 背後の少女に手出しはさせぬとばかりに仁王立ち、大穴を介して相対する二人の男。見た目の印象だけに焦点を絞るなら、誰もが華憮羅の勝利を予想するだろう。

 しかしことこれは超越者アウター同士の闘争である。ケンカの強さだけで勝敗が決まるような戦いではないのだ!


「僕は貴方みたいに暴力に訴える奴が一番嫌いなんだ。野蛮なんだ。ムカつくんだ。だから、もし君が今後尻尾をまいて逃げたとしても、僕は必ず殺すことにするよ」


「うっせ誰が逃げっかバーカ。調べは付いてんだぜ、お前らが禍津星マガツボシの刺客さんだってなぁ!!」


 それを聞いた飛尾樹は舌打ち、そして直後華憮羅に新たな動き!

 華憮羅が虚空に放った右ストレートから、突如現れた巨大な拳の幻影ビジョン──『グリズリー・テンプル』によって生まれる念動力の塊が、二人の間に横たわる大穴を飛び越えて飛尾樹へ一直線に向かう!


「あっそすごいね」


 対する飛尾樹は跳躍! 向かってくる拳の幻影ビジョンを踏み越えて、上空より華憮羅に襲い掛かる!

 無論それを黙って見ている華憮羅ではない、続けてアッパーの形で身体を動かし頭上へ向けて拳の幻影ビジョンを発射!

 しかし飛尾樹は手刀を振り下ろすとその幻影ビジョンを一刀両断! 減速することなく華憮羅へ一直線に舞い降りる!

 が、その頬にねじ込まれる華憮羅本人の拳によって、飛尾樹の落下は受け止められた!


「ショーリューケンってなあ!!」


 『グリズリー・テンプル』によって現れる巨大な拳は、華憮羅の一挙一動を再現する念動力の塊!

 即ち、華憮羅がアッパーを繰り出せば、本人のアッパーと念動力のアッパー、その二つが時間差で一度に襲い掛かるのだ!

 超絶の威力と抜群のリーチ、そして隙を生じぬ二段構え! 華憮羅の誇る肉体言語は常人のそれとはわけが違う!

 もんどりうって転倒した飛尾樹! すかさず華憮羅はそれを踏みつけにかかる! 飛尾樹はごろごろと転がってその足を避けるも、続く念動力の足もまた飛尾樹に狙いをつけているのだ!

 しかし念動力の足が飛尾樹を踏み潰すこと叶わず! 千津留の投げた苦無くないが華憮羅の足を抜き打ち、体勢を崩したのだ!


「ちっ、こそばゆいわッ!」


 忘れてはいけない! 元来敵は千津留と飛尾樹の二人組である! 謎の不調によりダウンしている加賀利を庇う華憮羅は、不利な戦いを強いられているのだ!


「もう、貴方も一人で無茶してるじゃない! そういうのダメなんだからね! めっ!」


「大丈夫だって。これ以上君を心配させるような真似はしないさ……ふーっ。しかし華憮羅君、今僕を靴履いた足で踏み潰そうとしただろ? アリとか、セミとかを潰すみたいにさあ。僕を格下と見て踏みに行ったんだよな?」


「あ? 知るかんなもん。だがまあ~~~結果的に下には見ちまってるかもしはれねえな。何せ俺は天上天下てんじょうてんげ唯我独尊ゆいがどくそん天衣無縫てんいむほう傍若無人ぼうじゃくぶじんの華憮羅様だからな!!」


 足元の苦無くないを踏み割り高らかに宣言する華憮羅!

 親指の腹で自らを指さすその姿は、根拠のない自信に満ち溢れている!

 先ほど足に苦無が突き刺さったにも関わらず、まったく支障のない様子でたくましく直立している!

 事実、大した怪我ではないのだ! 華憮羅にとって多少の無茶など日常茶飯事! その程度で行動不能になることなど在り得ないのだから!

 意味不明のスケール感に白樺加賀利はもうどうにでもなーれという表情を隠さない! 突然現れた男二人が声高らかに口論する図は一般的女子高生の頭で処理するには情報量が多すぎるのだ!


「そう。君も僕を馬鹿にするんだ──」


 その底冷えのする声を聴いた瞬間、華憮羅の脳裏を嫌な想像がよぎった。

 超越者アウターが徒党を組むことは珍しい。天津星アマツボシは規律によってチームワークを推奨しているが、自意識過剰な超越者アウター達が自ら進んで協力する例は決して多くない。

 無論禍津星マガツボシがそのような方針を取っている可能性もあろうが、それにしては眼前の二人は仲が良すぎる。

 ということは、目の前の二人は相当にウマが合う──同じような価値観を抱いているのではないか?

 そしてそれはつまり、彼らの能力は“似通っている”のではないか?

 つまるところ──飛尾樹の能力の神髄もまた催眠ヒュプノの系列なのではないか? と!


「僕はねえ。根に持つタイプなんだ……子供の頃、さんざんに虐められてねえ。みんな僕と遊びたがらなくってねえ。倉増くらます菌だとか、倉増くらますが移るとか、病気みたいな扱いをして僕をいじめてくれた。耐え難く苦しい日々だったよ。でも、僕の超越能アウトレンジはそんな逆境の日々を力に変えてくれたんだ」


 唐突な自分語りをし始めた飛尾樹。

 知らねーよそんなことと言わんばかりに拳を振り上げた華憮羅だが、不意に身体の動きが鈍り始める。

 これは一体どうしたことだろうか? 唐突に彼の身体の節々が軋み、悲鳴を上げているのだ!


「だから僕は、この超越能アウトレンジは天啓だと思ったんだよ──だって僕には相手を殴りつけるような勇気はなかったんだから。千津留さんを守りたいと思ってからはちょっとは鍛えたけど、でも本当は人を殴るのなんて嫌なんだ。だからこの超越能アウトレンジは天啓なんだ」


「てめえ、何か仕込んだな」


 頭がずきずきと痛み眩暈めまいがする! 喉が腫れ呼吸が自ずと早くなる!

 明らかに尋常の事態ではない! 華憮羅は飛尾樹が能力を行使したと確信し、潤んだ瞳で睨みつけた!

 肩で息を始めた華憮羅の様子を見て、飛尾樹はそっとほくそ笑んだ。

 華憮羅を見上げるその顔は、恨み骨髄に達した後ろ暗い感情に染まっている!

 決して不細工ではない、取り立てて特徴のない普通の顔。しかし恩讐に染まったその表情は、邪悪な笑みで歪んでいた!


「そう、僕の能力のトリガーは感情。じゃない。感情さ。君達が僕を『気持ち悪い』とか『相容れない』とか『えんがちょ』とか思うたびに、君達の肉体は発熱して弱っていく──これが僕の能力。倉増くらます菌の具現化、僕を呪う者への呪い返し! 『ナイトメアダイアリー』さ!」


「ろ、ろくでもねえーーー!!」


 その能力の開示によって、華憮羅の体調は更に悪化していく!

 ネガティブ極まる彼の能力は、然してまったく恐ろしい! 疑似的に病を再現するその能力は、ただ『そう』と思っただけで発動する!

 あくまで自己の改善ではなく、相手への復讐のみを考えて生きてきた怨念の塊! それこそが倉増飛尾樹である!




「ふふん、すごいでしょ。彼ってば、簡単に敵をあぶり出しちゃえるのよ。素敵でしょ、味方が簡単にわかる能力って。自分を虐めない人だけが残る世界って」


 わずかな間に千津留は華憮羅の目を盗み、加賀利の元へ肉薄していた!

 加賀利もまた倉増飛尾樹の能力の影響下に有り、その身は衰弱の一途を辿っている!

 出血を伴う加賀利の病状は、華憮羅にも増して深刻であった!


「趣味が悪い」


「そうかしら? 私は彼が好きよ。彼の能力が好きよ。彼の姿勢が好きよ。彼の仕草が好きよ。彼の顔が好きよ。彼の声が好きよ。彼の愛が好きよ。そして、そんな自分が好きよ」


「趣味が悪い」


「あっそ。でも、貴女も少しは私に期待してたんでしょ?」


 不明瞭な返事だった。

 息絶え絶えになりながらも精一杯侮蔑ぶべつを露わにする加賀利。そしてそれに対する嘲笑ちょうしょうと密かな自慢。

 頭上にハテナを浮かべる加賀利を馬鹿にしたように見下ろす千津留の顔は、愉悦ゆえつの表情で染まっていた。


「答え合わせしてあげる。私の能力のトリガーも感情。じゃなくて感情。貴女が私をちょっとでも好ましく、期待を抱いたりした時点で、貴女はとっくに私のとりこ──私の能力『スリープシープ・パレード』は、貴女の知覚を自在に操作して私に味方をしてくれるのよ!」


「趣味悪ッ!! 何がデリカシーよそんなのクソもないでしょあんたばかじゃないの──ううっ」


 より一層の嫌悪感を抱いたおかげで、加賀利はこみあげてくる嘔吐感をこらえる羽目になった。

 先ほどの夜、遠く電柱の上に立つ人影を見た時点で、加賀利は既に彼女の術中にはまっていたのだ。

 ──こんな夜更けにあんな場所に立つ人は超越者アウターではないかしら、そしてもしかしたら都合よく天津星アマツボシと関係を持ってたりしないかしら──

 ちらとだけ内心に抱いたその期待によって、加賀利はあっさり催眠ヒュプノに囚われ偽の紫宮しのみや禍翅音かばねとの対談の席に付かされたのだった!


 恐るべき二人組である! 嫌悪を煽り肉体を支配する飛尾樹と、好意を煽り精神を支配する千津留!

 片一方が拒絶されようと片一方がそれを受け入れる、絶対無敵の催眠ヒュプノコンビ!

 決して素の能力は高くない、けれども一撃必殺の妙技を有する奇術師。それこそが催眠使いヒュプノスである!


「うるさいよ。僕たちがどんな気持ちで子供時代を過ごしたのか知りもしないくせに。僕は僕を虐める人を絶対に許さないんだ。黙ってうつむいてるだけの人生なんてごめんだからね。でも千津留さんはそんな僕を大事に思ってくれるんだよね。理想の女性だよ。とても素敵なんだ。羨ましいだろ」


「こ、こんなところで惚けるんじゃないの!」


 事実、この二人は相思相愛であった!

 飛尾樹の能力は、僅かにでも彼に不快感を感じた時点で発病する! ならば一向にその兆候を見せぬ立花千津留は、文字通り彼にぞっこんなのだ!

 一方の飛尾樹もまた、千津留の能力を知りながら自ら望んで傍に寄り添っている! 即ち、彼女の異能によって認識を操られても一向に構わないという信頼の表れ!

 二人は紛れもなく小指が赤い糸で繋がってるコンビである!


「……可夢偉の野郎がいなくて良かったな。嫉妬でワケわからんことになりそーだアイツ」


 二本の足で立ちながらもどこか姿勢の覚束ない華憮羅は、眼前の敵、飛尾樹を見据えて気合を入れなおした。

 しかしその挙動はいかにも頼りない。顔色は悪く、腕は震えていて、瞳は眠たげに閉じかけていた。


「とりあえずインフルエンザくらいのだるさを喰らわせてあげたよ。頭痛、鼻水、せき、寒気、腹痛とか嘔吐感──しんどいだろ。本気を出せばノロウイルスくらいの症状は出してやれるんだけど、さすがにしないよ。可哀想だからね。僕は深刻になりすぎない程度の引き際を知ってるんだ」


 どの口が言うか、と返事をする労力さえ惜しい。

 超越能アウトレンジ超越者アウターの自意識の表れ。そうと信じた世界観ルールを現実へ押し付ける傍迷惑な異能。

 強固な精神を保つ自己中心的な者ほど、超越者アウターとしては上等である。

 しかし、肉体の不調は精神の不調をも呼び起こす。弱り切った肉体では、超越者アウターは存分にその能力を発揮することはできない!

 戦いの高揚によるランナーズ・ハイならいざ知らず、斯様かような絡め手による責め苦を耐え凌ぐのは至難のわざ

 華憮羅は身体の防衛機能に抗い、必死に己の中の闘志を揺り起こしているのだ! 水上では優雅な体躯たいくを保つ白鳥が、その実水中では必死に足を掻き回しているように!


「私達は仲間が欲しいの。一緒に世の中の理不尽に抗ってくれるな・か・ま。天津星アマツボシなんて連中よりも、禍津星マガツボシのほうがずっと気楽で優しいんだから。悲惨な目に合ってる仲間アウターは出来る限り助けたいわ」


「でも、僕らを拒絶するんだったら要らないや。僕らは寂しがりやだけど、それ以上に偏食家だからね。イエスマンや舎弟が欲しいんだよ。僕らは弱くて情けないからね。だから、天津星アマツボシとかそういうのも邪魔なんだ」


「だから、同調しないなら貴方達はいらない!」


「今ここで無残に死んでいけ!」


 飛尾樹の手刀が、千津留の苦無が、月明りを反射してきらりと光る!

 弱った獲物を仕留めるは狩人の鉄則! 異端狩りの刃が今、振り下ろされた!




「──それだけか。禍津星マガツボシの連中が、どんな連中なのかと伺ってみたら」


 果たして──二つの刃は受け止められた!

 二人に分身した白樺加賀利、彼女が手にする刀『光忠みつただ』によって!

 千津留と飛尾樹の瞳が驚愕に染まる! 千津留と鍔迫り合っていた加賀利の姿が露に消えた!

 如何なる絡繰りか!? 先ほどまで病に臥せ倒れこんでいた加賀利は、元気溌剌げんきはつらつの様子で二人の前に立ちふさがっている!


「どこまでもせせこましい連中ね。付き合ってあげて損したわ」


「馬鹿な、何故君は自由に動ける!? その身では立ち上がることさえしんどい筈!」


「できるわよそのくらい。だって今の私は、風神なんだから」


 由来の知れぬ病を運び込む邪悪な風──人々はそれを指して『風邪かぜ』と呼んだ。

 『天満流風伯術てんまんりゅうふうはくじゅつ』によって風神をその身に宿した白樺加賀利は、まさしく風を操る力を得る。

 暴風を渦巻き、鎌鼬かまいたちを放ち、旋風の如く宙を舞う神の力。

 しからば、風に纏わる逸話の如くも自在に操って然るべきだ。

 超越者アウターが定めた世界観ルールは、に現実を塗り替える。

 加賀利はかつて風神へ捧げられた儀式を元に、己が身をさいなむ悪性の風をぬぐい去った。

 医学の発達していなかった時代、病をほふるべく行われた古の儀式──

 その名を『風邪かぜの神送り』と言う。


「原因不明の病気はみんな風邪。邪悪であろうと風には過ぎず、ならば吹き払うはお茶の子さいさい──私医学薬学とか詳しくないから、そういうことにさせてもらうわ」


「インフルエンザっつってんだろ!」


「私健康優良児だったから細かい違いとか知らないのよ。どっちもうどん食って寝てれば治るでしょ」


「人の痛みの分からない奴だな!」


「うっさい病歴の有無だけでマウント取ってくんな!」


「無知を装って理論武装する奴なんかに言われたくない!」


 無理解を演じることであらゆる病気を『風邪』という単一のカテゴリに押し込めた加賀利の在り方は、現代科学に中指を突き立てているに等しい!

 しかし、そうと信じ込むことで加賀利はあらゆる病苦の根絶に成功した!

 『病は気から』そのことわざを彼女は文字通りに体現しているのだ!


 口論はやがて怒号の応酬に代わり、加賀利の刀と飛尾樹の手刀が打ち合いを始める!

 加賀利の刀裁きは高速の御業、しかしその隙間を縫って差し込まれる飛尾樹の手刀もまた苛烈!

 先ほど『グリズリー・テンプル』の拳をも両断してみせた斬撃は、加賀利の有する業物に一歩も劣ってはいない!

 しかしいかに鋭く強靭な超越者アウターの手刀と言えど、真剣と打ち合って無事で済むはずはないはず! ならば!


「そうとも、僕は二つの超越能アウトレンジを持つ第二次超越者セカンドアウターだ! 手刀を剣の如き切れ味と頑強さに変える『リジッドパラダイス』、君の獲物より素早く硬く太く逞しく振れれば何でも一刀両断! 僕をただの催眠使いヒュプノスと侮ったのが運の尽きだったな!」


「あーうっさい壁にでも喋ってろ!」


 キンキンと金属同士がぶつかる音を立てながら、飛尾樹の手刀は『光忠みつただ』を打ち払う!

 両腕で刀を握って振りかぶる加賀利に対し、剣舞のように両腕を振るう飛尾樹はさしずめ短刀の二刀流!

 リーチの差を補って余りある速度と手数が加賀利に襲い掛かり、二人の剣戟が刃鳴はな散らす!




「ぬんッ!!」


 一方の華憮羅もまた、病を振り払い戦線復帰!

 己が指を両肩の付け根に勢い良く突き刺すと、首をゴキゴキと鳴らし元気よく立ち上がる!


経絡秘孔けいらくひこう──健康推進、病気予防のツボを突いた! 催眠ヒュプノだろーが関係ねえ、常在戦場のオレは元気まっさかりだぜえええ!!」


 出自の怪しい技術を用いて体力を取り戻した華憮羅は、ずんずんと音を立てながら歩き二人の元へ向かう!

 その前に立ち塞がるは侍女服姿の立花千津留! 両の手に苦無くないを握り締めた彼女は、低く姿勢を落とし跳躍の構えを取る!


「オイやめろ、こう見えてオレはレディ~ファ~ストを心掛けてんだ。殴らせるような手間を取らせるんじゃねーやい」


「知ったことじゃない!」


 そして飛び上がった千津留は、なんと中空で衣装を切り裂き下着を露わにしながら華憮羅へ迫る!

 流石に面食らった華憮羅、快進撃を止め一歩後退あとずさった!

 千津留は己が痴態を気にも留めず、両手の苦無くないを振りかぶった!


「『スリープシープ・パレード』──少しでも助平心のある男なら、貴方もこれでおしまいねっ!」


 期待、信用、共感、発情──微かでも好意を抱いた瞬間発動する催眠ヒュプノを伴い、千津留は暗殺を試みる!

 それは千津留流の必殺の構え! 如何なる相手であろうと催眠ヒュプノの内に引き込んでしまえば無抵抗そのもの!

 数多の超越者アウターを葬ってきた千津留の真の妙技である!

 ──が!


「華憮羅マグナム!!」


 目論見は失敗に終わり、千津留の身体は宙空を舞った!

 華憮羅が放った渾身のストレートは急接近する千津留にぴったりクリーンヒット!

 直撃を受けた千津留は華憮羅の背後に弾き飛ばされ、頭から地面に墜落! 笑う膝を抑えながら立ち上がる彼女の顔は驚愕の色に染まっていた!


「かはっ──、ばかな、私の『スリープシープ・パレード』が通用しないはずがっ。まさか貴方イン、」


「なワケねーだろ。さっきの懇切丁寧な解説はちゃーんと聞いといたからな。今の俺にその手の篭絡ろうらくは通用しねえ。何故ならさっきまとめて経絡秘孔で魅了予防と催眠耐性のツボを突いといたからな! もうてめーの手は何一つ通用しねえ!」


「め、メチャクチャ言うな! 人体にそんな都合の良い機能があるわけないでしょ!」


「うるせー論理破綻はお互い様だろ! てめーの身体は知らねーが、俺の身体には予防のツボがあるんだよ!!」


「私と飛尾樹の能力のは実体験からなるトラウマが由来なの、貴方みたいに無から設定を生やすのとは訳が違うの! デタラメに後付けを増やすんじゃないーーっ!!」


「だから言ってんだろ、俺が強え理由なんてたった一つだっつうの! それはこの俺様が、重明華憮羅様だからだァーーーッッ!!!」


 重ね重ねの自画自賛による強烈な自己認識!

 言わば超越者アウター同士の決闘は自分ルールの押し付けであり、最後に負けるのは己が力に不信を抱いた弱者である!

 華憮羅は一重に勝利のみを夢見る! 己が負けるという未来を微塵みじんも考えず、ただ貪欲に己という存在を誇示し続ける!

 その圧倒的な自意識は世界を侵食し、常識を塗り替える!

 そう、重明華憮羅は──

 ──オレは、主観で世界を仰ぎ見る!

 この場の主役は紛れもなくオレ! ならば辿る道筋は当然決まっている!

 ヒーローの華憮羅様はかわい子ちゃんの助けに現れ適度にピンチになりつつも最後は敵をカッコよく倒しました、まる。それで全てだ!

 主役が姑息な毒程度で負けるとかありえねえ! 実際にやっちまったら興醒きょうざめに違いねえ!

 だからオレは全てを打ち壊し正義の予定調和を手に入れる! それはこのオレが華憮羅だからだ!!

 メアリー・スー、デウス・エクス・マキナ、マクガフィン、脚本演出設定考証日程調整監督プロンプター他諸々、その全てがオレであり、オレの夢でありオレの舞台だ!

 何故なら俺の勝利を疑うものは、俺の世界には一人もいない!!

 それこそがオレが行う世界への念動力サイコキネシス、逆境の糸をブッ飛ばし逆転の道筋を強引に掴み取る巨大な剛腕!!

 『グリズリー・テンプル』、その真価はオレの活躍を約束する栄光!

 その真の名は、『ハンズ・オブ・グローリー』!!!


超越者アウター同士の闘いなんてのぁ我の強い奴が勝つ、気合入ってる奴が勝つ、ワガママな方が勝つ、主張の強い奴が勝つ、つまりノリにノッてる奴が勝つんだよわかったか!!!」


「く、くそ体育会系ーーーっ!!!」


「オレに感づかれた時点で、テメェらはどうしようもなく敗けだァァァーーーーーッ!!!!」


「何言ってんのわけわかんない頭おかしいんじゃないの!?」


「狂人上等! そのくらいのほうがハクが付くってなぁ!!」


 ヘラクレスしかりシグムンドしかりスサノオしかり、英雄はなにがしかのキ印エピソードを持っているものだ。神話の豪傑も現代の英雄もそのへんは変わらない。ならばオレにもその程度のエピソードはあってしかるべきだ。相対した敵を恐れおののかせれば適当に威厳はついてくるだろう。結果は行動に伴う。オレが自分を主役だと思って主役っぽい振る舞いをすれば実際主役っぽい文脈で活躍ができる。オレの一念で世界を演出できる! つまりそういうことだ。分からない? 知るか。この世界ではオレが勝つ。それが全てだ!


「というわけで喰らいやがれ今必殺の華憮羅ファントム!!」


「ちょっ待っ、」


 そんなワケで女をボコにする描写を長々するのもつまらんので(俺は紳士なので)手短に必殺のストレートを放ってメイド服女をもう一回車田吹っ飛びさせた。背後で人間が墜落する音が聞こえたが命に別状はない。KОゴングがどこかから鳴り響く。カンカンカン。オレは勝った。スイーツ。

 さて残りは病気野郎だが、向こうは向こうで何やらイイ勝負をしているようだ。風の嬢ちゃんは嬢ちゃんで頭に血が上っているっぽいし、こっからはデキる先輩キャラとして嬢ちゃんの健闘を湛えることとしよう。

 オレの勝利は確定した。というわけで視点を元に戻す。重明華憮羅はクールに去るぜ。




「『颪鎌風おろしかまかぜ』!」


 『光忠みつただ』の刀身が光り、鎌鼬かまいたちが迸る!

 横薙ぎに振るった刀から飛び出した鎌鼬かまいたちは、今しがた刀が切り払った軌跡へ向けてまっすぐに放たれた!

 まったくの無動作で発動する『颪鎌風おろしかまかぜ』の鎌鼬かまいたちは、加賀利の思うがままの方角へ飛ぶ!

 往復するように一帯を通過したくろがねと風の二種の刃は、完璧な不意を打ち飛尾樹の左手をズタズタに切り裂いたのだ!


「まだやる?」


「まだだとも!」


 瞬間、加賀利の直下より迫る刃! 加賀利は危うくも身をとっさに引いて紙一重で攻撃を回避、スカートの端が音を立てて切り裂かれた!

 見れば飛尾樹は裸足を大きく掲げている! その艶やかな足先は月明りに照らされ鈍く輝いていた!

 その刃の名は足刀! 飛尾樹の能力『リジッド・パラダイス』は、手刀のみではなく足刀をも鋭い刃物へと変貌させたのだ!

 その足裁きの見事なこと! 回し蹴り要領でで次々繰り出される足刀横蹴りは、加賀利を的確に窮地へ追い込んでいた! 手刀より長いリーチ、そして体重を乗せて振り回される足刀の威力はまさに絶大!

 加賀利の細腕は決して屈強ではない! もしもの足と打ち合えば、力負けして大きく体勢を崩すこと必須!


「『飛廉天飄風ひれんてんひょうふう』ッ!」


 しかしそんな彼の戦闘スタイルにこそ付け入る隙はあると見込んだ加賀利、刃先を飛尾樹へ向け竜巻の如き暴風を放つ!

 丁度飛び蹴りの構えとなっていた飛尾樹は、風力に抗えず成すすべなく吹き飛ばされていく!

 風にあおられてフェンスを突き破り、マンションの下へと落下していく飛尾樹! 近所の夜景から見るに、数十mはくだらない高層ビルの上である! 落下すれば命はあるまい!

 加賀利は飛尾樹の姿が消えたことを確認すると、ほうっと胸を撫で下ろした。


「驚いたよ。そんな真似もできるんだね──君も第二次超越者セカンドアウターなのかい? 随分と多芸でずるいなあ!」


 しかしその直後、飛尾樹は平然とビルの外壁から再び現れたのである!

 彼は鋭い刃と化した足を壁面に突き刺し、再度戦いの舞台である屋上までよじ登ってきたのだ!

 再度刀を構えなおし、飛尾樹と相対する加賀利! こうなれば直接その身を切り裂くか、あるいは足も届かぬほどの高度から突き落とす他あるまい!


「づっ、い」


 しかし、その覚悟を打ち壊す突然の激痛が加賀利を襲う!

 口内の肉がとろけているかのような耐え難い痛み! 歯茎の隙間に針を差し込まれたかのような苦痛が彼女の脳裏を支配する!


「無学な君でも知ってるくらいに有名な病気を喰らわせてあげたよ。老若男女全てを襲い、世界全土に蔓延まんえんしている恐るべき病──人はそれは虫歯と言うんだ」


「あんた最低ほんっと最っ低!!」


 あらゆる病を全て風邪扱いして片付けた加賀利だが、こと口内を支配する歯痛に対してその認識を当てはめる事ができない!

 幼少期より刷り込まれた虫歯へのイメージを脳裏から取り払うことができないのだ!

 その隙に飛尾樹はすかさず攻撃を加えていく! 歯の根が合わず動きに精彩を欠く加賀利は、敵の猛攻を凌ぎ切るのに手いっぱいであり現状を打破する手段を見失っていた!

 元よりただでさえ現状の彼女はいっぱいいっぱいなのだ!

 超越者アウターへの抑圧、家族の安否、夕方の不審者の襲撃、千津留による先の幻覚攻撃、無闇に格好をつける痛々しい大男、そして飛尾樹の攻撃による耐え難い苦痛と不快感!

 僅か一日の間に蓄積されたストレスはとうに彼女の許容量を超え──そしてついに、加賀利の堪忍袋の緒が切れた!


「ああああほんっっっとムカつく本当ろくでもない奴らなんだから、もうどうなっても知らないからね『颪鎌風天剣おろしかまかぜてんけん』!!!」


 そして加賀利は刀をでたらめに振り回した!

 その度に放たれる鎌鼬かまいたちは四方八方に飛び散ったかと思うと、突如方向を変えて飛尾樹の元へ殺到する!

 手足の刃を駆使して迫る鎌鼬かまいたちを弾き飛ばす飛尾樹だが、その猛烈な勢いを前に今度は己が防戦一方!

 さらに、弾かれあらぬ方向へと飛んで行った鎌鼬かまいたちが屋上の床や壁面をしっちゃかめっちゃかに削り取る! そうして生まれた破片もまた鎌鼬かまいたちが生み出す風力によって飛尾樹へと一斉に飛んでいくのだ!

 必殺の切れ味を誇る鎌鼬かまいたちとそれが生み出す石飛礫いしつぶて、二種の攻撃に晒された飛尾樹は次第に追い詰められていた!

 攻守の構図は瞬く間に逆転した! 猪武者の如く無茶な攻勢に出た加賀利のゴリ押しが周囲一帯を犠牲にしながら飛尾樹の命を削っていく!


「くっ、自ら進んで破壊活動を行うだなんてやっぱり君は愚かだな! 一般人に超越者アウターへの理解を持ってもらうんじゃなかったのかい!?」


「うるさい元はと言えばあんたみたいに被害者ぶって他人に理解がないのがいるからこじれるんでしょ人の気を知らないのはどっちだっつー話なのよ潔く自首しろそれか死ね!!」


「君それはヘイトスピーチだぞ!!」


「弱者の立場を笠に着るなお客様根性野郎が!! 第一さっきまだやるか聞いたのにまだやるって答えたのあんたじゃん都合よく手のひら返してんじゃないわよばーか!!」


「言ってはならんことを──」


 そして度重なる斬撃によって切り取られた床が陥没し、二人は階下へと落下する!

 いや、落下したのは飛尾樹のみである! 加賀利は落下の直前に跳躍を行い、瓦礫の中に沈んだ飛尾樹を堂々と見下ろしていた!


「『飛廉天飄風ひれんてんひょうふう』!!」


 そして眼下へ向けて暴風を解き放つ!

 風圧に潰され身動きの取れない飛尾樹と風の推進力によって滞空を続ける加賀利の構図は、この上なく明確に二人の上下関係を表している!


「分かり合えない人も居ますそういう人とは無理に分かり合わなくて良いお互いのパーソナルスペースを侵害しないのも大事だよねそれで解決はいおしまい、それが分からない分からず屋は死ね!!」


「二枚舌にも程があるだろう!!」


「非暴力不服従なんてめんどくさいことやってられっかってのよ!!」


「そういう強引な言い分が少数派マイノリティを追いやっていくんだ!」


「あーもううっさいうっさい私はあんたのママでも先生でも無いの人生相談がしたいなら他を当たって!」


「それでも権力者の娘かああっ!!」


 瞬間、加賀利のかおは憤怒の形相と化した!

 家族からの干渉に辟易へきえきして親元を離れた加賀利にとって、その言葉はまさに逆鱗!

 虎の尾を踏んでしまった飛尾樹は、さらなる風圧によって全身の骨を砕かれていく!


「結っ……局本音はそれか、適当に殴る相手が欲しかっただけ!?」


「ぐっ……う、鬱憤を晴らすなんてどこの誰でもやっている事だ! 権力者は弱者をいたぶるが、僕達のような弱者はお前たちみたいな強者を羨んで妬むしかない!」


「何言ってんの馬鹿じゃないのあんたが殴る蹴るしてた相手は年下の女子高生でしょ十分弱い相手を選んでるじゃない! そもそも二人がかりで襲い掛かってるし、そのうえ権力者本人じゃなくてその娘とかどこまでも性根が腐りきってるのね!!」


「都合、よく弱者の立場を笠に着るな! お前も同じ穴のむじなだろうが──」


「うっさいばーかムカつくのよ死ね!!!」


 加賀利は刀身を脇に構え、暴風の推進力によって急降下!

 憎悪の目線を浴びせる飛尾樹の元へ流星の如く降り立ち、そのまま首を掻っ切った!

 天津星アマツボシ禍津星マガツボシの対立組織による小規模な紛争は、今ここに決着したのだ!




「さすがの華憮羅もそれには引くわ」


 そして一連の口論を見つめていた華憮羅は、呆れたような表情で呟いた。

 あれ、オレなんか常識人枠になってない? よくねーぞこの傾向。俺はもっと派手な主役でなきゃいけないんだって!




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「あースッキリした」


 ごっそり抜け落ちた屋上から這い上がりフェンスに座り込む加賀利は、無表情で頬を抑えて安堵の息をついていた。

 その横に腰掛ける華憮羅はいつの間にやら倒した千津留を米俵のように抱え、加賀利の様子が落ち着くのをじっと待っている。

 明日の朝にはこの大惨事もニュースとして報道されるのだろう。もちろん、超越者アウターの仕業を疑う研究者の見識と共に。紛れもない事実だが。


「早いうちにここを離れたほうがいいですよね」


「よくわかってんじゃねえか。だがまあチョイと待ってな。直に迎えが来る」


 出し抜けに話しかけた加賀利に対し、何でもないように答える華憮羅。

 彼は偶然ここを通りがかった訳ではない。加賀利が学校に休暇届を出したという連絡を聞き届け、彼女の安否を確かめに来たのだ。

 今は行方不明といえど、天津星アマツボシ総帥の娘である。何よりも強力な超越者アウターである彼女の身に何事かあれば一大事だ。

 そう語る華憮羅の前で加賀利は渋い顔をした。その過保護な境遇は彼女の望むところではないが、それによって今回の危機を脱したのも確かである。

 無下にするわけにもいくまい。どれほど怪しい大人であっても。


「ていうか、本当に天津星アマツボシの人なんですか?」


「さらっと失礼な事言うなお前。まあ秘密組織だし身分証明できるものもあんまりねぇけど──この正義に燃える瞳を見て確信しねえか?」


「いまいち」


「そっかー」


 露骨にしょんぼりする華憮羅だった。

 加賀利は露骨に華憮羅を警戒しているが、それも無理からぬことだろう。

 何しろ先ほど催眠ヒュプノによる攻撃を受けた直後である。連続の襲撃はそう無いだろうが、警戒しておくに越したことはない。

 とはいえ特に強力な催眠使いヒュプノスが相手となればその催眠ヒュプノを見破るのは至難の業。多少の懐疑心など何の気休めにもならないのだが。


「ま、何はともあれ無事で何よりだっぜ。お前さんが総帥の娘だからとかすげえ超越者アウターだからとかいう理由で探し出したなんて──あるっちゃあるが──、それはそれとして天津星アマツボシの基本理念は人命と人権の尊重だからな」


「それはどうも。その、背負ってる禍津星マガツボシの人を保護するのもそういう理由です?」


「無論よ。まあ尋問はするだろうが」


「優しいんですね」


「正義だからな」


 正義。華憮羅がそう口にした直後、それを聞いた加賀利の顔が引きつった。


「私はさっきあの人を殺しました。軽蔑します?」


「いや別に。正当防衛としては成立するだろう。何事も時と場合による。一元にあれだこれだと定義づけるなんてこたぁできっこねえからな。……何の躊躇ちゅうちょもなくやったのはだいぶビビるけど」


「そうですか」


 正義、正義とは何だろう。加賀利は脳内でその単語を反芻はんすうした。

 姉、白樺花芽智かがちもしきりに正義を叫んでいた。それは果たして善を意味するのだろうか。

 世の中は簡単な善悪で割り切れないということくらい加賀利も知っている。では彼らの言う正義とは、果たして誰にとっての『正当な義』なのだろう。

 超越者アウターにとってか、人間にとってか。万人に等しく与えられるようなものではないのは確かだ。

 果たして彼らは誰を救い、誰を活かし、そして誰を殺すのだろうか。

 斜に構えた目線で物事を見る加賀利。彼女はそんな穿ったものの視方をする自分でさえも冷めた眼差しで見つめていた。

 やがて、静寂を切り裂く轟音が響き始めた。

 ヘリのローターが空気を切り裂く音。目線を上げると、映画やドラマでしか見たことないような縄梯子なわばしごが足らされているのが見える。


「お、ようやく来たな」


 天津星アマツボシからの迎え、なのだろう。加賀利は唾を飲み込んだ。

 かつて決別した超越者アウターとの闘争の道。己はその渦中に、今自ら足を踏み入れようとしているのだ。

 超越者アウターと人間。善悪でさえ二分できない混沌とした世界に引かれた断絶の壁。

 それを砕くには果たしてどれだけの困難が立ちはだかるのだろうか。

 加賀利は遥か彼方の夢の実現へ向けて、今ようやく一歩を踏み出したのだった。


「ようこそ天津星アマツボシへ。我らは新たな同志を歓迎するぜ──白樺加賀利」






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禍「ぷんつくぷんつくぱやっぱー。というわけでなぜなにスバルの時間です!」

可「わー。あっなぜなになんですね。すっかりこのコーナーの重鎮と化した品陶可夢偉です。苗字書いたの久々」

禍「ちょっと加賀利様も華憮羅様もめちゃくちゃじゃないです? かたや言葉遊び込みの山盛り能力にかたや主人公補正バリバリに受けまくる能力とか、チートものですよチートもの。異世界転生でチート生活ですよ」

可「お前も大概だよ。いよいよ俺の肩身が狭くなるでしょ。バットマンのロビンでももうちょいなんかできるぞ。雑に磁力マグニートーとか操れるようにならねーかな」

禍「さらっと最強クラスを要求するなあこの可夢偉様。そういう遠慮がなさそうででもならないかな止まりの謙虚なところが素敵ですっ」

可「お前は傷口を抉ってんのそれとも慰めてんの? 前者だろうな」

禍「しくしく。信用がない。でも傷心のままに彷徨っていた可夢偉様がよくやく再開した花芽智様もまた心に傷を負っていて傷を舐め合う道化芝居に陥るお二人も尊くありません?」

可「頼むから黙っててくれ。地球が超新星爆発するまででいいから」

禍「まっ、いけず」

可「お前と喋ってるとどんどん最大HPが減るんだよそれはもうじわじわと。んじゃお便り行きましょうね」

『この物語はどのようにして執筆しているのでしょうか? 入念なプロットがあるようには思えませんが、それはそれとしてある程度の骨組みがあるのか、即興で作られているのかが気になります』

可「ナチュラルに失礼なこと書く奴だな」

禍「基本ノリと勢いなので後付けは山ほどありますよ。基本的に1話先のことは考えてないです」

可「知ってたよ。およそのプロットもないんだよ。オゾン層はもうないんだよ」

禍「基本続きって書きながら考えてるんで……なので支離滅裂なので。シリメツレツなので。セツナサレンサなので。オーダーメイドなので」

可「風と風邪がどうこうってネタ温めてた?」

禍「いえ全然。その場その場の勢いです。」

可「まあ勢いがなきゃああはならないよな華憮羅先輩……」

禍「ゴリ押し熱血を書きたいときはゴリゴリの熱血曲をBGMにするのがおすすめですよっ。炎の転校生とか」

可「あれは誰だ!?」

禍「誰だ!?」

可「おれだ!!」

禍「あっでも前回はちょっとだけ骨組み考えましたよ! 加賀利様の前に出てきた敵から彼女を庇うようにカッコよく現れる可夢偉様、次回に続く!みたいな」

可「俺出てねーけど!?」

禍「途中で華憮羅様になりましたね。なんででしょう」

可「今んとこ出番少なめだったからとかじゃないですか。というかこの話のメイン所って誰なわけ?」

禍「えーっ、それは白樺姉妹のお二人と我々と華憮羅様の五人ですよ。たぶん」

可「たぶんと来たか……」

禍「位置的に重要? になりそうな人は苗字が『し』で始まって名前が『か』で始まるんですよ。だからどうってわけでもないんですけど」

可「なんで『し』と『か』なんだよ」

禍「さあ……」

可「さあて」

禍「まあこの先どうするかも考えてないんですけどね。四大神翼、じゃなくて四災神群しさいしんぐんとの対戦カードは考えてるくらいで」

可「こら!」

禍「ちゃんとネタを取ってあるのは四天王、じゃなくって四災神群しさいしんぐんまわりと私に関してだけですね。あとはもう継ぎ接ぎの継ぎ足しのパッチワークの突貫工事で」

可「待ってお前のネタってなに?」

禍「それはひみつひみつ ひみつのアッコちゃんな禁則事項です☆」

可「じゃあ言うなよ!」

禍「だってだって だってだってなんですもの!」

可「今回やたら歌ネタ多くないすか。どうでもいいけど」

禍「もうどうでもいいから今日は朝まで踊りたい?」

可「別に……(沢尻エリカ)」

禍「じゃあこの辺で本日はお別れです。また次回!」

可「毎回後書きでやたら文字数稼ぐのやめない? だからどうってこともないんだけどさ」

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