その陸:幕開けの調べを誰が知る
未知の
構成員の殆どが出払っている中、留守を預かりし三名の
なれども士気は常に高く、彼らの闘志衰えることなし! 日々の訓練の賜物である!
その心中には、いわゆる嫌われ者たる三人組に手柄を出し抜かれたという反骨の炎が宿っていた!
尚、後の展開における彼らの出番は未定である!
一方、そんなモブ隊員の心境とは全く関係なく。
当の
彼女らは秘密組織
「つっても、俺らにも分かるこたぁ
「え? なんですか可夢偉様? 禍翅音に何かご相談でも?」
「いやなんでもない。ただの思い出し
可夢偉は禍翅音の茶々を一蹴し、柔らかなシートに身を委ねた。
顔を横に向ければ、
彼らは
彼らは、かれこれ数時間こうして車の振動に揺られ続けている。
実を言えば、可夢偉は車というのは特に嫌いではない。
特に誰かに運転を任せている横で心地の良い眠りに付くのは、彼の人生においても数少ない至上の楽しみである。
では何故、彼は
ことは単純である。現在、彼には心休まる暇が無いからだ。
車内には六人の人間が座っていた。
真ん中の席で窓の外を眺め、過ぎ行く光景を見つめる
後部座席に身を預け、柔らかな寝息を立てている
後部座席から身を乗り出し、可夢偉の横顔を観察している紫宮禍翅音。
助手席には報告書に記入を続ける
運転席には高速を容易く駆け抜ける無言の凄腕ドライバー。
そして最後の一人は、可夢偉の隣で大声を張り上げ観光名所の解説を続ける喧しい男であった。
「あ、ホラホラ見ろよアレ! アレよアレ、アレがスカイツリーっつーやつよ! 初めて見たろ生? スッゲーだろ、マジに現実に存在してるんだぜアレ!」
「うわーすごいっすねー」
可夢偉、生返事!
名古屋←→新横浜間の高速道路から東京スカイツリーが見える
男はげらげらと声高らかに笑うと、隣に座っている可夢偉の背(正確には、彼が背を預けているシート)をバンバンと平手で叩き始めた。
身なりの良いチンピラそのものといった様相の男は、満足げにシートに座りなおし、どかんと音を立て足を組んだ。
前を大きく開いた純白のスーツ。獅子の文様が刻まれた赤地のネクタイ。
ワックスで固められた黒髪は後ろに撫で上げられ。両の耳たぶには白銀のリングピアスが二つずつ。
そして大きく開かれた口からはギザギザの歯がキラリと輝き、楽しげに吊り上がった三白眼は気持ちの良い漆黒を称えていた。
何を隠そう、彼もまた
一向を兵庫県より東京都まで迎え入れるために遥々やって来た、本部よりの連絡員。
名を、
「なァーーー可夢偉よォーーー、俺は前から思ってたゼ! お前はやりゃあ出来る奴だってよォ!! 今からその表彰されに行くんだろ? そんなダウナーでどーーーすんだよお前よォ!!」
「いややったの殆ど禍翅音ですってば。あと多分表彰じゃないっすから。事情聴取とかそういうのですよ」
「上ーーー等じゃねえか!! いいタイミングだし自分売り込んどけ。いいか昇進のコツは如何に手柄を自分のモノっぽく報告するかだぜ、ホラお前の場合アレとかあるだろ、アレ何日か前の非番中の銀行強盗逮捕とか!」
「いやそれも花芽智の手柄ですって。つーか先輩が言っても説得力ないすわ」
「そいつぁ言うなよなぁ! うぁっはっはっはっはっは!!」
可夢偉はゲンナリとした顔で受け答えを続けた。
相手に顔を合わせさえせず、ひたすらに時が過ぎるのを待ち続けている。
このような事態に至ってから早数時間が経とうとしているが、尚も彼の忍耐の時は終わらないのだ……!
そしてその様子をうきうきとした表情で観察しているのは、後部座席の禍翅音である!
地獄! 可夢偉は謂われ無き理不尽に身を焼かれる苦しみを味わっていた!
「あの、あの、あのあのあの。可夢偉様と
「おう、俺らの仲か? なんだ~そんなに気になるかあ? 禍翅音ちゃんも見る目があるなあ!! 良いガールフレンドを持ったじゃあねえか可夢偉!! んん!?」
「やめろガールフレンドはやめろマジでやめろやめろください。あー、この人は、ただの高校時代の先輩ってだけだよ」
偶然の再会!
なんと、可夢偉が高校時代に所属していたバドミントン部のOBこそ、この男・
そこをすかさず華撫羅に目を付けられ可夢偉は地獄の日々を経由することとなったのだが、その詳細は今回は面倒なので省略する!
その後、浪人生と化した可夢偉は
こと此処に至って、二人の運命は見事に交差してしまうのだった!
「おぉう! コイツには色々教えてやったモンだぜぇ! なあ可夢偉!! 覚えてっか、オレたちの魂の指南十ヶ項目!!」
「酒の飲み方、賭けの稼ぎ方、
「よーーーっく覚えてンじゃあねーかっ!! さッすが可夢偉、オレの見込んだ男だ!!」
「服装とサボり方以外なんも役に立ちませんでしたけどね」
「何……それは、お前……まさか……まだ……ッ童貞かよ!?」
「ばっうっせえなこの野郎??!! どうでもいいだろそんなこと!!?」
「好くねぇ、そいつぁ好くねぇだろ可夢偉よォ!! 20にもなってそいつぁ無ぇだろ!! やっぱあの時カグヤちゃんに勇気を出してアタックすべきだったんじゃあねェかぁ!??」
「うっせマジうっせ!! あんたここ上司いるの忘れてないか、前で肩震わせてるの見えるだろ忘れてねえか!?」
「バッカおめ倉光の叔父貴は俺達よりずっと頭ぁ良くて良い人だから平気なンだよ! 平気だよな!?」
「何でそういう考えになんだよ頭おかしいだろあんた!!」
二人のやり取りを聞いた禍翅音は両の頬を手で包み、瞳を黄金色にきらきら煌めかせていた!
だらしなく緩んだ口元からは呪文の如く可夢偉と華撫羅の関係性を表す謎の単語が垂れ流されているが、可夢偉にその文字列の真相を知る由は無い!
もとい、彼の第六感が言い知れぬ恐怖を感じ取りその意味を学ぶことを拒否しているのだが、それについて言及すると話が脱線するためここまでとしておく!
「……あー、君達。次のサービスエリアで多少休憩をしていくようだから、元気が有り余っているようなら暴れてくると良いよ」
「お構いなく!!」
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一方、その頃。
花芽智ら
誰も知らない。彼も知らない。筆者もまだ知らない。依然として知れない。
正体不明のロケーションにて
円卓に向かい合う彼らこそ、物語の裏にて暗躍を進める諸悪の一つ!
「連中は……セーラーVを退けたようだな」
目元までを覆う襟長のコートと頭部を丸ごと隠すカウボーイハットを、モノトーンの迷彩色で染めた全身衣装の謎の男。
手袋は一切を拒否する潔癖の純白。長靴は
彼こそ四災神群が一、
「そうでなければ困りますわ。あのような小物に手間取るようでは、わたくし達の敵にはなれませんもの」
続いて場を支配したのは、恐れを知らぬ女傑の張りのある声。
腰まで伸ばしたストレートのロングヘアーは、見るもの全てを魅了する
真紅の生地に黄金のアクセントが散りばめられた制服は、
彼女こそ四災神群が二、
「っちゅーても、一人もオトせんかったゆーのはマヌケやけどな。へちょい雷女と針男程度、あんだけ種割れててなんで殺せへんねや」
すかさず入り込んだ突っ込みは、怒気を孕んだ男の甲高い罵声。
両腕を頭の後ろで組み、足を卓の上へ放り出した男を彩るのは、ざんばらの茶髪と微かな
先の短い煙草を咥え、耳には錠前型のピアス。切れ長の右目は泥の色。斜視の左目は鉛の色。
二十台程度と目される年齢からは想像もつかない威圧感。
彼こそ四災神群が三、
「もうっ、ダメだよう故人をそんなにイジめちゃ。一つっきりの命だもの、ちゃんと
待ってましたとばかりに現れた最後の一人は、とびきり高いキンキン声。
くるんとした外ハネを残す長髪は、現実離れした
学芸会のお姫様役と見紛う恰好に、手にした杖はカラフルなペロペロキャンディー。瞳は煌めくスカイブルー。あどけない顔には歪んだ口角。
彼女こそ四災神群が四、
「
「えーっ、大丈夫だよお。
「そういう侮りがアホちゃうかっつってんねや。ンマに見た目通りのガキやな」
「え~なにそれ~。
「知らんわアホんだら!!」
「静まれ。ここは武闘の場ではない」
全身コートの男──
そのタブレットの画面には……おお、なんということか! タブレットは、花芽智らが乗り込んでいる車内の喧騒を余す所なく伝えている!
何らかの手段によって、
「なんや。何か気になるヤツでもおったか?」
「この、後ろの席の禍翅音チャンっていうのはちょっと気にいらないかな。いの一番に潰したいかも。でもまあ、他はたぶんそんなに大した奴じゃないよっ」
陳腐な魔女姿の少女、
禍翅音をじいっと観察する白く濁った瞳孔からは感情の程を読み取れない。
「構うことはありません。彼らには、わたくし達の存在を伝えるメッセンジャーになってもらうだけですから」
「左様。雑兵にかまける
腕を組んだ体制のまま、微動だにしない
円卓を囲んだ四人の影は、時折不規則に揺らめきながら暗闇の中でほくそ笑んでいた。
「我らの目的は唯一つ。我が物顔で幅を利かせる
「勿論分かっています。今の所計画は順調なのでしょう? セーラーなんとかって小娘が、わたくし
「せや。ワイらは手駒を一個ほっぽっただけ。そンでも連中は
「やったー、
「自重しなさい、
「え~。
「ワイはええねんて。この靴ピッカピカの新品やから、汚いとこひとつも無いで」
「そうかな~マナーとかの問題じゃない?」
「静まれ」
再び
気品という言葉が羽衣を纏ったような女、
舌打ちをしながらも渋々と足を下す
四者四様。四神の名を持つ四災神群は、年頃も性別も入り混じった統一性のない
誰もが己を一番に据えたがる人間の本能がある以上、彼らが噛み合わないのは当然と言える。
けれども、瞳に宿る昏い光は皆同じ色を湛えていた。
即ち、悪意と自己愛からなる強欲。
彼らは、
傍目には悪餓鬼の集団としか見えない彼らは、凝り固まった恩讐によって、何よりも強固な結束で結ばれていた。
「“あのお方”の発起から7年。遂に我々が表舞台へ姿を現すべき時が来た」
「ああー長かったな。その苦労もようやく報われるっちゅーわけや」
「爪弾きとされてきたわたくし達が、世界を丸ごと塗り替える──嗚呼! わたくし、悦びの震えが止まりませんわ」
「上手くいくといいね。いや、きっと上手くいくよ。だって、ワタシたちと“あのお方”だもの」
「そう。全ては我らと“あのお方”、
「「「「世界に警笛を。地上に宣告を。人類に恐怖を。
斉唱と共に風が吹く。
それは約束された破滅であり、予定調和の崩壊であり。
世界の変革を告げる、音無き開戦の音色であった。
「──そら見い。早速、天はワイらに味方してくれとるみたいやで」
我先に意識を逸らした
そして、救護室へと運ばれていく無辜の一般人の姿が映っていた。
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禍「幹部集合とかデジマ? って感じですね。まだマガツボシとかいうののちょっと出てきたくらいの謎の組織なのに。でも掴みって大事ですよね。王子様は早い段階で『おもしれー女…』って言わないと後にフラグを立てる機会がありませんから。というわけでこんばんわ。いつもニコニコ貴女の隣に這いよる混沌、紫宮禍翅音です」
可「帰って!?」
禍「いやですわ可夢偉様、私苦節半月程度の末にようやっとおまけコーナーでの出番を手に入れましたのに。あっさり追い出そうとするだなんてひどいひどい」
可「ここは俺と花芽智の憩いの場では……いや何でもない。何も言うな。俺は何も言わなかった。いいね?」
禍「嫌です」
可「嫌ですじゃねーよこいつッッ」
禍「ま、何はともあれお便りコーナーと行きましょう。私夏休みの宿題はさっさと終わらせて後から遊ぶタイプなので、面倒なお仕事はさっさと済ますに限りますわ」
可「その情報が地味にちょー意外だよ」
『どれだけ国家が頑張ったとしても、
可「SCPの読みすぎだ」
禍「お便りありがとうございますね。結論から申しますと、まあ、別に隠し通せてはいませんね」
可「暴力団とかが堂々と超越者飼ってんだもんな。割とポピュラってるよ、
禍「大規模破壊や空から降る魚を全部異常気象や機器の取り扱い不備で済ませるのも難しいですからね。無論報道規制は行われているようですが」
可「じゃあどうして世間一般にはバレてないってことになってるんですかねカバネせんせー」
禍「凄く身も蓋もないことを言ってしまえば、記憶処理専門の
可「出たよ。メン・イン・ブラック」
禍「私たちは鎮圧部隊なので本編ではさっぱり出てきませんが、
可「スカウト部隊とか隠ぺい部隊とか、割と後ろ暗いところ多いな
禍「どこの国も似たようなものですよ。CIAだのICPOだの、仰々しい名前が多いんですから」
可「みんなそういうの好きね。男の子」
禍「呑気ですよね。私は可夢偉様にいきなり先輩位置の人が増えてもうドギマギしているところだというのに」
可「……生モノで妄想するのやめろよ。お前だって、なんかカガミとかいう女の子? から何か言われてたぞ」
禍「いやですわ可夢偉様。私自分への矢印は興味無いのです。私は傍観者に徹したいので、こちらに向かってくる子は皆解釈違いです」
可「そうか何言ってるかよく分かんねえな。まあ傍観者気取りたいなら好きにやれば? 視界に入らなきゃそんなにお前さんも嫌いでもないから」
禍「人をゴキブリみたいに言うのやめてください!」
可「うるせーなせっかく言わなかったのに!! やめろ寄るないくら俺がイケメンだからって!!」
禍「自覚してるんならそれらしくナンパにでも明け暮れて花芽知様からこっぴどく降られればいいのに、なんでそう変なところで純情なんでしょうね可夢偉様は! あー可愛い!! なんですか存在が萌えキャラですよ、そんな心の弱い男の子だなんて! 庇護役の先輩まで交えてそんな完璧な立ち位置、卑怯ですよ可夢偉様はほんとほんと」
可「八割何言ってっかわかんねーんだよやめろ寄るなキモ……キモいわ!!! やめろ!!!」
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