第18話 魔が差す5
一人の休憩室。
井原はバッグから財布を取り出した。
小豆色の長財布。
中央にファスナーつきの小銭入れスペースがあり、それを隔てて札入れが上下にある。
上には千円札が二枚。
下には六枚。
上の二枚が自前の二千円で下の六千円が昨日松坂から拝借したものだ。
現在井原の借入は48万円。
月4万円の返済だが元金の返済に充当するのはその半分。もう半分は利息だった。
元々の借入金は80万だった。
利息についての説明を受けた時に無知をさらけ出したのが拙かったのかもしれない。
「返済は月二回。一回の返済で利息二万入れてくれればいい。」
と言われた。
「月四万、利息20%か。」と単純計算したのが間違いだった。
実際は月四万で利息を1年間払い続けたら年利50%を超す、高金利なのだが。
その時にあれはヤミ金だったのかと気付く己の世間知らずさに恥じ入った。
と言っても自分に貸し付けを担当した人間はニュースで見聞きするほどのステレオタイプのヤミ金ではなく、強面でもヤクザ口調でがなるのでもなく、むしろ柔らかな青年と言った印象があった。
その担当の青年は23歳と言っていた。
「おばちゃん、頑張って返してこうね!じゃないと俺も怒られちゃうから。」と言った時の顔は少し可愛らしさすらあった。
スラッとした上背にタイトなスーツ。サイドを刈り上げ、七三分けの髪型で甘いマスク。
「ヤミ金なんか辞めて俳優になりなよ」と何度思ったことか。
時計を見る。休憩時間終了が迫っていた。
(まずい、電話しなきゃ。)
『あ、店長。コズエですぅ。今日入りたいんですけど。うん、はい…はぁ…あー。わかりました。じゃあまたー。』
ふう、と溜息。
(デリヘルも人があぶれてますか…。)
独りごちた。
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