第11話 虐待者・宮野
事故が起きた際の手順は熟知している。
傷害部位の確認、バイタルの確認、日中であれば上の者へ報告、そして報告書の記入。
やむを得ない状況での事故なら宮野も狼狽えず対応した。
汚染したシーツの交換のために車椅子へ移乗、そして車椅子からの滑落による各所の内出血。
利用者から目を離した事を原因の1つとして押しつけられそうだがそれくらいは他のスタッフと理解があるし、誹りを受ける様な内容ではない。
が、このコブはなんだ。
滑落したときの物なのか?
先程自分はスミの頭部を確かに叩いた。
しかし、頭頂部ではなくやや額の近くだったと思うし何より平手で叩いただけだ。
このコブは明らかにかなりの力を込めて拳を握り振り下ろした物によるものだ。
素直に書くか?
いや、自分が疑われるのではないか?
宮野は自問自答した。
隠せる物なら隠したい。
今日の2階の夜勤は神田だ。
指示を仰ぐか?神田ならばベテランであり、こう言った事態にも慣れ、且つスタッフの不正にも寛容だ。
少なくとも自分を責め、告発する様な真似はしないと思う。
いやだめだ。これまで何度、彼ら「効率派」の不正を非難してきた?
その自分が助けを求めるなんて…。
時間は刻一刻と迫っている。
『宮野さーん?』
大槻の声がした。
太田スミの居室の入り口まで来ている。
拙い。
『大槻さんちょっと手伝ってください!』
『な、どうしたんですか?』
大槻が駆け寄る。
『あらー、ひでえ痣。』
『ここを見て。』
スミの頭頂部を指した。
『ボコッとしてますね。』
『でしょう?遅番誰ですか?』
『えーと、多分所くんです。』
『所か…あの野郎。2階は今日、神田さんだよね?』
『です、だと思います。呼びますか?』
『頼んでいいですか?』
『電話かけます。』
大槻は内線をかけた。
『ちょっと代わって。』
宮野はPHSを奪った。
『神田さんですか?所が又やりました。』
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