虐待
第1話虐待
『大場さーん。』
甘ったれたような男の声が、「特別養護老人ホームひだまり」雲雀ユニットに響いた。
『どしたの所くん。』
大場は齢40にして経験年数18年のベテラン介護士であり、高校生の娘を持つ兼業主婦だった。
『やばいっす。キミさんの足ハクっちゃった。』「ハクる」とは「表皮剥離をつくる」と言う、介護士ならではの動詞だ。
『えー、ちょっと見てみようか。』
大場と所は「白鷺ユニット」へ移動した。
『ちょっとキミさんごめんねー。』
大場は「キミさん」本名山崎キミヱ御年91歳のパジャマの左足部分を捲った。
『ありゃー。』
大場は声を上げた。
『すいません。』
所は特に申し訳なさそうでもなかった。所隆太、この間まで運送会社の倉庫で仕分けの仕事をしていたが諸事情により畑違いの介護へやってきた25歳の男だ。
『とりあえずゲンタとガーゼだな。』
大場は言った。ゲンタと言うのは男の子の名前ではなく「ゲンタシン」と言う抗生物質の軟膏である。
『これ「じこほー」っすか?』
所は伏し目がちに言った。
山崎キミヱの表皮剥離は縦3センチ横2センチ程、場所は左足脛部分の外側踝のやや上である。
『うーん、今19:48か。今日当直誰だっけ?』
大場はデジタル式の腕時計を見ながら訊ねた。
『叶谷主任です。』
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