夢が叶ったから
@kinka
第1話
(───俺は一体何をしているんだ)
傷付いた体を動かしながら、男はふと考えた。
(何故、俺はこんな目にあっている)
迫る敵に拳を振るい、自分を無視して進もうとする兵士に銃弾を浴びせる。
彼がいる場所が戦場に変わってから1時間経過した。
既に味方は全滅し、生き残っているのは金で雇われた流れ者の傭兵である男だけ。
(ああ、しくじった。なんで、いつもみたいに途中で逃げなかったんだ)
殴る、蹴る、撃つ、避ける。
蹴る、撃つ、殴る、避ける。
体に染み込んだ人を殺す動作を、ただひたすらに繰り返す。
(分かっていただろう。自分はただ、逃げ足が速いから、生き残り続けていただけだ)
撃つ、撃つ、撃───てない。
予備の弾も全て使い果たし、長年使い込んだ愛銃がガラクタとなる。
殴る、殴る、殴───れない。
皮膚が避け、骨が飛び出し、拳に力が入らなくなる。
(───そもそもなんで、俺は生き残ろうとしていた?)
蹴る、蹴る、蹴───れない。
弾丸でぐちゃぐちゃになった足は、既に体を支えることすら難しい。
(そうだ。確か俺は金持ちになるために作家になって───いや、違う)
避ける、避ける、避け───れない。
既に転がる体力も残っていない。
(俺は、自分の考えた物語で、誰かに笑顔になってほしくて───)
倒れ伏す男を踏みつけて、兵士達は進む。
その先にあるのは、戦場から逃げ遅れた人々の集うキャンプ地。
既に逃げる体力も残っていない、哀れな犠牲者達の逃げ場所だ。
(あそこの人達は、俺の作った物語を聞いてくれた)
唯一動く左手で、男は懐から何かを取り出す。
(面白いねって、言ってくれたんだ。あの子は、あの人達は、笑ってくれたんだ)
先端にボタンがついた棒状のそれは、彼が事前に仕込んでおいた、爆弾の起爆装置。
(だから───)
震える指で、スイッチを押す。
瞬間、男が倒れていた位置からキャンプ地より手前。
勝利の声をあげていた兵士達の足元で、無数の爆弾が点火した。
吹き飛ぶ有象無象の兵士達。
ギリギリまで足止めされ、一ヶ所に固まっていた部隊は全滅した。
(ああ、悔いはないと思ってたんだが───)
己の仕掛けた罠に巻き込まれた男は、肌を焼く熱さと、息が出来ない苦しみの中、ぼんやりと考える。
(なんてこった。面白い話を思い付ちまった。こんな所で寝てる場合じゃねぇ。皆に聞かせて、感想を聞かないと───)
男は事切れた。
悔しそうな、楽しそうな笑みを浮かべて───
夢が叶ったから @kinka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます