決戦! 熱海にとっては迷惑だ(ry

「行くぞりんこ! カメカメだー!!」

 ミチルパパの繰り出す技の名前はしょぼかったが、威力は絶大だ。

 カメカメだーとは、某バトルアニメを参考にしてミチルパパが練り上げたものだ。思念を体にまとわせて、気功波としてターゲットにぶつける。

 りんこちゃんはしゃがんで避けたが、遠くの岩肌がえぐれていた。

 観光客が悲鳴をあげる。

 ミチルが叫ぶ。

「パパー、環境破壊なのだー、ダメなのだー、NGなのだー!」

「少しは私の心配をしてくれませんか!?」

「りんこちゃんかわいいーのだー。さすがスーパーアイドルなのだー♪」

「変な称号をつけるのはおやめくださいまし!」

 りんこちゃんが立ち上がって文句を言っている間に、ミチルパパは次の攻撃に移っていた。

「カメカメだー!」

「しまったですわー!」

 りんこちゃんはしゃがむのが少し遅れた。

 遅れたのだが、気功波はまたも遠くの岩肌を砕いた。

 ミチルパパが露骨に悔しがる。

「ぐぬぬ、ちょこまかと」

 りんこちゃんは、カメカメだーの弱点に早くも気づいていた。

 当たった時の威力は絶大だ。 

 しかし、亀のようにノロいのだ。そのため、戦闘の素人であるりんこちゃんでも難なくかわせたのである。

「奥の手が効かないとあっては、どうしようもない」

 ミチルパパの諦めは早かった。

「君の目的はなんだ?」

「夏企画の開催と、温泉につかる事ですわ」

「なるほど。よし、叶えてやろう。温泉は別だが」

 りんこちゃんはホッとした。温泉代をおごってもらえないのはガッカリだが、仕方ない。りんこちゃんは割り切っていた。

 ミチルパパがガサゴソとポケットをさぐる。

「ミチルのスマホとツイッターアカウントを返してやろう。パスワードは小文字の半角でpasswordだ。好きにするがいい」

 パスワードを123にする人間を馬鹿に出来ないレベルのパスワードである。

 しかし、りんこちゃんは空気を読んで一礼した。

「夏企画へのご協力、感謝いたしますわ」

「うむ……えっと、あれ」

 ミチルパパは仰々しく頷いた後で、周囲を落ち着きなく見渡している。

 明らかに様子がおかしい。

「どうしましたの?」

「ポケットにしまったはずのスマホがない」

「え?」

「当たり前でしょう。こんな事もあろうかと、私が隠し直したのよ」

 口を開いたのは、ミチルママだった。

「ミチルには普通の人生を歩んでもらうわ」

「そんな!? 夏企画はどうなりますの!?」

「中止とするしかないわ。だって主催がいないのだから」

「嘘でしょう!?」

 りんこちゃんの背後に雷が落ちた。

 実際にミチルが自分の魔力を使って落としたのだ。地面に小さな穴があいている。

「演出も疲れるのだー」

「能力の無駄遣いはおやめなさい!」

「ああ、ミチル! またそんなオシャレでない魔法を使って」

 りんこちゃんとミチルママから口々に文句を言われたが、ミチルはのほほんとしていた。

「邪神はやりたいようにやるのだー」

「スマホはしばらく返さないわ。夏企画の運用は諦めなさい」

「ええーΣ ママひどいよーミチル泣いちゃうよー!」

「ほら、プリンあげるから」

「わーい(*´∀`*)」

「プリンにつられないでくださいましー!!」

 ついに、りんこちゃんが怒鳴った。

「ミチルさん、あなたは夏企画をやりたいの? やりたくないの!?」

「ひゃりたいよー、もぐもぐ」

「辛うじてやりたいようですけど、ちょっと疑いますわ! 夏企画中止のツイートが出回っている事の重大性は分かっていますか?」

「ごっくん」

 ミチルは満面の笑みを浮かべる。

「プリンをもらった後で、夏企画再開のツイートをするのだー」

「まさに邪悪!」

 観光客がどよめいた。

 ミチルママは乾いた笑いを浮かべた。

「夏企画は諦めなさいと言ったでしょう……?」

「私は言ってないのだー」

「プリンをあげたでしょう!?」

「別問題なのだー」

 ミチルママはしばらく唖然としていた。

 ミチルパパが、彼女の肩をたたく。

「おまえこそ諦めたらどうだ? ミチルの意思は決まっている」

「……私の辞書に諦めるなんて文字はないわ」

 ミチルママが暗く澱んだ声で呟く。

「百歩譲って邪神なのはいい。ヘドロなのもいい。でも、プリンをあげたのに言うことを聞いてもらえないのは我慢ならないわ。そうよ。ミチルのスマホは私が隠しているから、それでいい。ミチルは夏企画再開のツイートはできない!」

「あ、これだー」

 ミチルは母親のポケットからはみ出た自分のスマホに手をかける。

 その時だ。

 ミチルは電気が走るような衝撃を受けた。

 実際、電気が流れたのであるが。ミチルは為す術なく地面に倒れた。

 ミチルママが黒い笑いを浮かべる。

「くっくっくっ……こんな事もあろうかと、スマホを使えないようにしたの。触ったら強力な電気が流れるようにしたのよ」

「もぅ、ママったら!」

 ミチルがあっさり起き上がって唇と尖らせた。さすが邪神と言うべきか。

「邪神じゃなかったら死んでたよ!」

「大丈夫だったでしょう? さぁ、熱海観光を楽しみましょう♪」

「そうだね(*´∀`*)」

「お、おい。スマホが使えないのか?」

 珍しく口を挟んだのは、ミチルパパだ。

「そのスマホ、ミチルは仕事にも使うと言っていたぞ。職場から電話が来たらどうするつもりだ?」

「……」

 ミチルママは凍りついた。文字通り氷に包まれたのは、ミチルの演出だろう。

 しばらく待つと、氷が溶けた。

「りんこさん、あなたをシステムさんとして認めるわ。スマホの修理をお願いするわ」

「スマホ会社に持ち込んでくださいまし!」

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