虚しい勝利

「ちょ…、いた、痛い、おい、こら…止め、止めて…」


 畑を耕やすように大根打ちで僕は男を打ち据える。


 男は右手で顔面を庇ったが、僕のバットが男の腕をへし折ってしまった。


 悲鳴がコダマするが僕は手を休めない。鍛え抜いた肉体から繰り出される一撃は必殺の一撃だ。


 鈍い音が数度して男は泣き始めてしまった。


「おい、おい!止めろ、もう止めろ!泣いてるだろ!」


 コスプレイヤーに羽交い締めにされて動きが止まる。大した力じゃ無いので、振りほどいて続きをしても良かった。


 でも、足下でシクシクと泣いている男を見て……










 やめた。


 男の姿を見て、僕は少し罪悪感に囚われていた。


 魔物とは言え、人の姿をして泣いている者を攻撃するのは気持ちのいいことじゃ無い。僕の求めている強さはこんな暴力じゃない。


 僕はダラリとバットを降ろし、天井を見上げた。

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