初見にしては苦戦し善戦中
表面が土や岩の破片で覆われている。そして表面は異様な程滑らかでドス黒い。
蠢き襲う様を見ていると何かの神話や御伽噺に登場する化け物の様だが、先端の形状や付着物からして、あれは間違いなく一般的に植物の根と呼ばれるものである。
最も、明らかに統率された殺意のある動きで人の肉を貫き臓腑を抉り抜き取ろうとする植物の根を『
さて、シェリー君はこれを如何するか?
今までシェリー=モリアーティーは数多の刺激的な経験を積み上げてきた、曝されてきた、乗り越えてきた。
相手は人間だろうが人外だろうが関係無く、皆がシェリー=モリアーティーに襲い掛かってきた、立ち塞がってきた、殺しに来た。
その困難に真っ向から立ち向かい、尽く乗り越えてきた。しかし、シェリー君が今まで相手をしてきたのは全て
今の実力ならば、相手の視線、筋肉の動き、武器の形状、生態、自分との関係性……それらを観察していけば動物の
あぁ、学園の地下で出会った石塊の事かね?あれは無生物ではあるが、人の殺意が介在していた。だから構造や形状、それの持つ意味、そして
しかし、今回は違う。あれは植物であり、当然勝手も違ってくる。非常に業腹な事ではあるが、あれの構造や形状、それの持つ意味をシェリー君も私でさえも目にしたことがない。
次を狙う場所に向けられる筈の目は無い。だから切っ先の向きと初動で見極めるしかない。
次の動きを指し示す筋肉も無い。だから動き出した相手を見てからこちらは動き出す。
そもそも根を武器にするという発想が動物には当然の様に存在していない。前提から違っていた。非常事態であり、尋常ならざる規模である。
そんなものを絶好調から程遠い非力で非才な少女が相手にするとどうなるか?
当然、結果は見えていた。
「止まっては……頂けない様ですね!」
雨霰とばかりに飛来する黒槍を避け、時に受け、時に弾きながらそんなことを口にする。
シェリー君の美徳にして悪癖、言葉による説得は今回完全にデメリットとしてのみ機能している。
相手は植物、そもそも耳が無い。そのくせこの根は振動を感知して襲い掛かってきている。
先程からシェリー君の周囲を這い回っている黒い根はシェリー君の心臓や肺、手足に頭と致命的な箇所を的確に、そして執拗に狙ってくる。
防戦一方。苦戦どころか絶体絶命の窮地に居た。
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