枯れて生えて地獄の片鱗は映えて

 後ろで起きた限定的爆発は否が応でも異常としてシェリー君に伝わった。

 が、状況の見えない今、不用意に振り返れないとすぐ悟り、そのままペースを落とさず、しかし危ない一手を使うことなく加速していった。






 「有り難う…御座います。先程の……爆発、のお陰で、助かりました。」

 追っ手に捕らえられる事無く狭い空間を何とか潜り抜け、入り口まで戻ってきたシェリー君達。

 自称そこそこ天才の放った一発の後、記憶を辿って暗い中を走り抜けて来たお陰で目が未だ周囲の景色を二人は捉え切れていない。

 シェリー君は早速身に纏っていたH.T.を解除し……正確に言えば維持が困難になった結果布に戻り、支えの無くなった状態でふらつく様に、しかし辛うじて絞り出した身体強化で自称そこそこ天才を地面へと降ろし、そのまま体勢を崩す様に地面に跪いた。

 一回満身創痍になり、反動で気絶する様に眠った『病み上がり』あるいは『未だに死に損ない』状態の人間があそこまで無理をすれば当然ながら満身創痍に逆戻りすることになる。

 あの場ではシェリー君にはあれ位しか手が無かったとは言え、今直ぐにでも苦言を呈さずにはいられない。最も、それはいつもなら・・・・・の話だがね。

 「なんだこれは、何だこれは!?一体何が起きている⁉」

 シェリー君を介抱しようとして、自称そこそこ天才は気付いた。

 暗闇の中から急に外へ。曝された強い光は両目を眩ませ、外界の光景を直ぐ感じ取る事が出来なかった。

 強い光・・・、その正体は陽光だ。しかし、普段なら空から地面を覆い隠す数々の木がその光を閉ざしてここまで目を眩ませる事は無い。

 目が慣れて、自称そこそこ天才は何が起きたかを、何が起きているかをやっと理解した。

 シェリー=モリアーティーが全力を尽くした結果、あの地下空間から這い出てきたのは自分達二人が最初だと確信している。だから、周囲の木々の葉が落ち、急に枯れ朽ちて、老人の指の様になった枝の向こうの空に、黒くのたうち回る黒い何かが、先程自分達を追っていた波の様な何かが、暴れまわっているあの光景は、幻燈の魔法であって欲しい。




 「……初めて見るな。」

 シェリー君が満身創痍で膝をつき、自称そこそこ天才が動転しながらも辛うじて指先を動かしている中で、私はそれを見ていた。

 急激に枯れ果てて荒れ地になった森の向こうで、黒く蛇の様に空を這って登る黒い柱……あるいは鞭の様なものが何本も暴れている。

 新種の蛇……と言うには余りにも太い。そして大きい。

 ここに来る前学園の図書館でこの近辺を調べた。それ以外の場所も調べた。だが、概算で直径50㎝、全長5mを超える蛇が地面から何本も生えて暴れるなんて話は見なかった。

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