地獄の片鱗に沈勇在りて
今、森が枯れて、大地がヒビ割れて、最後に砂漠になっていく様を見ている。
それは本来瞬きをする間に移ろいゆく様な目まぐるしいものではない。
いくら人類が環境を破壊する事に長けているとはいえ、先程まで
犯人は誰か?環境が壊れ逝く程に活き活きとして暴れ回っている眼前の黒蛇の群れを最重要容疑者にしても安直とは誰も言うまい?
「一体、これは……」
ようやっと息を整え、膝を突いていた地面の異変に気付き、周囲を見回したシェリー君が尋常ならざる異常な状況に目を見張った。
『地下洞穴を抜けるとそこは地獄絵図であった』、笑えない冗談だ。
「あぁ、シェリー嬢、気が付いたか。結論から言おう。私は今目の前で何が起きているかさっぱり解らない。これでも生物系には大分明るいし国外の生物や現象についても聞いている。だが、これは知らない。見た事がない。
何か心当たりは?私が無知である可能性とうっかり忘れている可能性が高いと思うのだが?」
口が良く回る。手先は相変わらず。パニックを起こして役立たずの案山子にはなっていない、置物にもなっていない、かと言って無駄に動くこともしていない。
しかし自称そこそこ天才は目に見えて動揺している。
それを見て、シェリー君は血の気が引いた顔を苦悩に僅かに歪めて重く首を振る、横に。
「残念ながら浅学非才な私には見覚えも心当たりもありません。あれの正体が何なのか、皆目見当もつきません。」
三人寄っても知恵も解も手掛かりも手に入らない。
「取り敢えず家を呼び出している。先に言っておくが、家の無事とオーイの無事は確認済みだ。安心して欲しい。」
『家』の単語を聞いた段階でシェリー君の表情が更に曇り歪み、自称そこそこ天才がそれを見て直ぐに察して『孫娘の無事の保証』という先手を打ちつつシェリー君の目の前に立ち塞がった。
もしそれがなければ最悪……否、必ずシェリー君は走り出していた。たとえそれで自分の足を潰したとしてもやっていた。
勿論それをしようとしたら私が主導権を奪い取って全力で止めたがね。
「落ち着くんだ。私も慌てている。慌てているが、あのレベルの問題を相手にするというのなら、家も無い状態でこの場で如何こう出来る規模を遥かに超えている。
自称そこそこ天才の人生史上五本の指に入る事態だ。無茶は止めるんだ。動きたい気持ちは解る。それでも、だからこそ、惨状を変えられる人間が惨事に散る事は絶対に回避しなければならないのだ。
時間が一秒一秒過ぎていく事が苦しいだろう。何も考えずに動いた方が余程楽だろう。
でも、だから、君は苦しんでくれ。」
自称そこそこ天才はシェリー君の肩を強く掴み、絞り出す様にそう言った。
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