魔道具の家で朝食を


 鍋に火を点ける。

 普段は使わない大きめのフライパンを火にかける。

 フライパンが温まる間に自家製の燻製ベーコンを厚く切って、温まった事を確認して三枚広げる。

 フライパンから伝わる熱気、ベーコンの油と水分が弾ける音、鉄板の上で色付いていく燻製肉の香りが頭脳を刺激する。


 器が小さい事は百も承知だ。

 余裕綽々とまではいかずとも、未だ酒も舐めた事の無いお嬢さんにムキになるのは自称そこそこ天才の名折れである。それはそれとして悔しい!悔しいのである!


 卵を6つ、立て続けに片手で割り入れる。鮮やかな橙色の目玉は2つずつ、ベーコンの上に吸い込まれるように落ちていき、その周りに白い泡立ちを作る。


 勿論、作業速度や効率は当然遅い。自分とは比べるべくもない。比べられたら自称そこそこ天才……否、『発明家』の名が泣く。

 伊達に彼女より多く食事と睡眠に時間を費やしてきた訳ではない。その分だけ私に分が有る。

 だが、真面目に取り組み、気になる点を簡潔にまとめ、的確に要点を突き、至らぬ部分を培ってきた知識や僅かな経験で補い必死に喰らい付こうとするその様にはヒヤリとさせられた。

 自分はこの齢の頃に果たしてここまでの自分であっただろうか?いや、あまり愉快な代物に関わっていなかった気がするし、それでも魔道具や発明に関しては彼女よりも遥か上に居た。


 鍋に水を垂らし、蓋をして蒸し焼きにする。油と水が跳ね回る音が反響して聞こえてくる。


 ただし、それは私の環境が、発明をする上では恵まれていたからこそ至れた境地だ。

 肥料と日光に恵まれた環境で育ったが故に、今の自称そこそこ天才はここに居ると認めざるを得ない。

 対してシェリー=モリアーティーという少女。アールブルー学園は確かにこの国では最高峰の教育機関の一つと言って良いだろう。だが、彼女の愉快とは言えない境遇を想像するのは難くない。恵まれているとは思えない。


 綺麗に焼き上がったハムエッグを三等分して皿に載せ、ベーコンの油の残っているフライパンに葉物野菜を2種類ほど入れる。


 この国の貴族は、というか、何処の国へ行ってもそうだろうが、上に行けば行く程選民思想や権力に憑り憑かれていく。正直、自分自身が悪霊と化して、自分自身に呪いをかけていく様なものだ。そんな中で貴族ではない者がどんな扱いを受けるか、想像に難くない。


 瑞々しかった緑と赤色の葉は熱で見る見るうちに縮んでいく。手早く炒め、軽く塩と胡椒を振り、満遍なく馴染ませる。


 環境自体は良くてもそれが全て逆風に働いていたら元も子もない。そんな逆風環境であそこまでの能力を手に出来たのは素晴らしい……異様だ。

 英才教育も無しに特待生が努力をして特待生の座と魔法戦闘と魔道具作成を三つ同時に成り立たせる。その内二つはその辺の学校では教わらない内容。一体何処で教わった?


 二色の野菜ソテーをベーコンエッグの横に添える。


 という事で、あの部屋に今居る少女は要警戒だ。何処からやってきたのかが、何なのかが矢張り解らない。

 ちなみに、部屋に軟禁した理由はこの前自分の発明で自分の発明を破られたのが悔しかったのでリベンジです。


 昨日の内に用意してあったスープを用意して、パンをトーストする。


 そうこうしている内にオーイからの連絡が来た。

 この早さだ、どうせ朝御飯は食べていないだろう。丁度3人分の食事の準備が終わったし、ご相伴に預からせてやろう。


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