厚切りジャムトースト

 「今日の朝ごはん何?もうお腹ペコペコでさー。」

 孫娘の第一声は自宅の様に寛いだ声だった。

 自称そこそこ天才としてはそれに対して良い顔は見せない。寧ろ不機嫌を露わにといった具合でぶっきらぼうにそれに返す。

 「我々の朝食は・・・・・・ベーコンエッグ、野菜のソテー、スープ、トースト、ジャム入りのヨーグルトだ。

 だがそれはあくまで我々の朝食であって、君の分を用意してあるとは一言も……」

 扱いを露骨に悪くしようと口調をぶっきらぼうにして大不歓迎ポーズを取っているものの、残念ながら机の上には朝食が三人分、食器から飲み物の紅茶までキッチリ並べてある。

 「やったー、ベーコンエッグ、ジテン最高!」

 下手な嘘な上に孫娘は深く考えていない。という事で、腹ペコ状態で美味しい馳走にスキップしながら向かっていった。

 「あー、全く……。

 手を洗いなさい手を。ここにもある程度の医療設備とそこそこの医療知識&技能持ちが居るには居るが、人の治療は専門外だ。極力病気と怪我には注意して過ごすように。」

 最早糠に釘で暖簾に腕押しで無駄で無意味で無謀だと悟った自称そこそこ天才はせめてもの抵抗として、今まさに席に着いて食器に手を伸ばそうとする孫娘を止めて水道を指し示した。

 「はーい。」

 飛び上がるように椅子から浮き上がり、水道へと走っていった。

 「ったく……あぁ、しまった、『ゲストルームの解錠を』。

 モリアーティー嬢、お待たせした。さぁ、朝食の時間だ。」

 扉の無い部屋に扉が生え、扉の中の機構が動く音がした。

 「お早う御座いますお二人共。

 それと、ジーニアスさん、次は私もお手伝い致しますね?」

 「あー、うん……悪かった。この自称そこそこ天才にしては非常に狭量な事をしたと後悔しているとも。次回は善処しよう。」

 ある程度の気遣いがあっての事だと知っている。だがそれはそれとして、シェリー君は感情豊かで多感なお年頃。素敵な満面の笑顔の筈なのに一寸があったりする事も、ある。


 「で、今日は何をするの?

 その……道の整備とか具体的な復興とかは未だ出来ないんでしょ?他にやる事あんの?」

 一枚目のトーストにベーコンエッグを載せて美味しそうに平らげ、自称そこそこ天才を介さずに家に手慣れた様子でオーダーして二枚目のジャムたっぷりの厚切りトーストを大きく一口食べ終えた所で孫娘が口火を切った。

 「この……人の家を高性能給仕として扱っておきながら何を……。」

 「良いよね、この家。ジャムたっぷりの厚切りトーストって言ったらちゃんとジャムたっぷりの厚切りトーストが出てくるんだもん。しかも絶妙なトースト具合で。」

 「ぐ、ぬ、ぐぬ、グヌグググググググ……」

 自分の発明が忖度おべっか抜きで評価されている事自体は嬉しいのだが便利に使われているのがシャク!という表情で自称そこそこ天才は言い淀んでしまった。

 その代わりにシェリー君が言を引き継ぐ。

 「オーイさん、今日はお手隙ですか?」

 「うん、今日は一日こっちで手伝いして晩御飯まで居ようと思ってたよ。何かある?」

 「ガスが採取されて霧が出ていない今。森を少し見て回りたくて。

 出来れば案内して貰えたら……と。」

 「良いよ。食べて終わったら行く感じで良い?」

 「お願いします。」

 そう言って厚切りトーストを一口食べた。



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