原因:真面目な娘

 自称そこそこ天才の人生と発明が融合した様な動き。

 対するシェリー君は、当然自称そこそこ天才ほど巧く、速く、機械的に行う事は出来なかった。

 今回のこの作業は魔力量に比例してやりやすいという事はないが、だからと言って簡単でもない。

 モランシステム……視覚・聴覚を魔法で送受信する技術を根幹にして組み上げられた防犯システムをモラン商会に送り付けた事があった。

 あれも物理的に離れた場所の監視を可能にするという性能で、似た部分は多い。情報量で言えば向こうの方が圧倒的に多い。勿論、シェリー君にはこれに関して会長として知って貰う必要があったから勉強はして貰った。

 だが、決定的な違いがある。

 こちらは精度こそ製作者依存ではあるが、無人である程度の監視が出来る。異常を感知するのは人ではなく魔道具自身なのだ。

 そう、モランシステムに生み出した意図的な欠陥、常に監視し続ける人材の必要性がこれには無い。

 だから慣れない作業に悪戦苦闘。自称そこそこ天才に申し訳無さそうにあれこれと訊いていた。

 ある程度コツを掴んでからも環境設定の違い故に仕様書を見ながらセンサーの術式に干渉。そしてシミュレーション装置にかけて、点滅しなければ一度席に戻ってセンサーの術式に再度干渉。そうして改めて装置にかけて、またも点滅せず、そうして幾度か干渉してやっと点滅。その後でそれを他の部品と組み合わせて完成させ、家の一画に設けられた完成品の置き場に置いて次へ。

 センサーの術式に干渉してシミュレーション装置に向かおうとして、席に戻り、術式に再度干渉、そうして装置に向かい、シミュレーション装置にかけて点滅。そして他の部品と組み合わせて完成させ、家の一画に設けられた完成品の置き場に置いて次へ……といった具合。

 それでも自称そこそこ天才の手早い作業とサポートもあり、真夜中になる前に全ての作業は終わり、二人とも自分の部屋で眠りに落ちた。




 そうして、シェリー君は早朝に目を覚ました。

 私は部屋の外に出て、おやと気付きながらも敢えて何も言わず、シェリー君が準備万端部屋を出ようとして……ドアが開かなかった。

 ドアの故障ではない。しかし、押しても引いても開きはしなかった。

 「ジーニアスさん、ジーニアスさん!ドアが…ドアが開かないのですが!」

 扉の向こうの物音を聞いたシェリー君がノックをしながら声を掛けたのだが、ドアは開かない。

 「開かないのなら……」

 懐から取り出したH.T.が部屋の外に伸びていく。この前はこの方法でドアを開けたのだからそれが有効だろうと思ったのだが大間違い。

 外側にドアノブという物は無かった。

 「あぁ、おはようモリアーティー嬢、残念ながら悪いニュースが二つある。

 1つ、今日の朝食は私が作る。2つ、その扉は私が朝食を作り終えるまで開かない。

 という事で、諦めて学園から出されていたという課題でもやっておくといい。」

 「え?」

 そういう事で、軟禁に近い監禁を強いられていた。


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