自称そこそこ天才にダメージ
「ジーニアスさん、お部屋を借りた件のお礼と謝罪が遅れて申し訳ありませんでした。」
「モリアーティー嬢、君、何処かの、特殊機関所属の、スパイだったり、親戚にその類が居たりは、しないかい?」
シェリー君が自称そこそこ天才の『家』のリビングに立ち、その真正面には自称そこそこ天才が対峙する形で立っていた。
シェリー君側は一度限界まで消耗して抵抗する事無く大人しく休んだ結果、全快ではないもののそこそこ快調といった具合。
対して自称そこそこ天才は自分の自信を打ち崩されて僅かに消耗していた。
というのも……
「モリー、入るよー。」
水を持った孫娘がゲストルームに入って来た事が発端だった。
「あ、オーイさん。ここまで運んで下さり有難う御座います。
途中から記憶がおぼろげなのですが、村の皆さんは大丈夫でしたか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。皆ケロっとしてるよ。ドクジーも大人しく捕まってるし、皆小さな怪我一つしてないから安心して。」
「良かった……」
記憶が曖昧になる程度に消耗したのだから先ず少しでも自分の心配をして欲しいものだが、今回に関しては特に後遺症等も無く目立った外傷も無い。これから少しばかりの間無理する状況にならない故、矛を収めるとしよう。
「ホイ、飲めそう?」
「有難う御座います。頂きます。」
渡されたコップの水を傾けてあっという間に空にする。一日飲まず食わずだったからね。
「この後ご飯だけど、一緒に如何?食べられそう?
なんか自天さんが御飯作ってるみたいだけど……」
「あぁ、この香り……私も手伝いますね。」
立ち上がろうとして、孫娘が立ちはだかった。
「おっとモリー。そうはさせないよ。
もうちょっと休んでてもらうよ。自天さーん!」
「だから自天とか天才とか奇妙な呼び名で呼ばないで貰おうか?『ゲストルームの内側ドアノブのロックを』。」
孫娘の声に自称そこそこ天才が部屋の外から不服そうに答えて家に命令をする。
「な……!」
ベッドから飛び出して部屋から脱出を試んだが孫娘に阻まれ、扉が目の前で閉まり、音がしてドアノブが固定される。
同時に天井から細い筒が伸びて二人の前に現れた。
「モリアーティー嬢は諦めてそこで休んでおくといい。
ディナーはステーキだ。しかもこの自称そこそこ天才の特製ステーキソースをたっぷりかける。
本件の最功労者はそこで座して……いや横になって心を躍らせながら待っているといい。
あぁ、もし喉が渇いたり小腹が空いたりしている様なら……『ゲストルームにお茶と茶菓子の用意を』。」
ベッド横にティーセット一式が現れる。
「こんな事もあろうかとってヤツ。モリー、諦めて晩御飯を待っとこう。」
阻んだ孫娘がゲストルームの端にあった椅子を引っ張り出してくつろぎ始めた。
その場で棒立ちになるシェリー君。完全に対策された形になる訳だが……自称そこそこ天才は自分が紳士的である事と自分がシェリー君に何を渡したかを忘れていたな。
『改良型H.T.』
シェリー君の懐から蛇の様に布が這い出して扉の真下にある僅かな隙間に滑り込んでいく。
「扉の形状は記憶しています。故にこうしてしまえば…………」
この家は非常に高性能だ。特に音声認識は高性能だ。が、言語を知っていれば何をされたかが解る。
内側のドアノブロック。施錠ではなくノブのみのロック。なら……
「外側のドアノブを使えば何ら問題はありません。」
ドアが開いた。
という訳で自分の発明品で自分の思惑をぶち壊されて自称そこそこ天才は精神に絶大なダメージを喰らったという訳だ。
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