良い出来の肉で作ったステーキで食事を
「今日のメニューはこれだ。」
指し示した三つの席の前には豪快な一枚肉が熱された鉄皿の上で音を立てながら堂々と座していた。
その脇には温野菜サラダ、先程自信ありげに語っていたソース、パン、野菜たっぷりスープと並んでいた。
一日遅れだが、祝勝会のつもりといったところだな。
「水を飲んだ後でこれは重過ぎやしないかな?とも思ったが、大丈夫そうなら一口召し上がれ。スープだけでも何なら構わない。」
「いただきます、正直言うと空腹で倒れそうだったので。」
「おっと、そりゃ大変。モリーの為にもしっかり食べないと。」
「言いたい事はあるが、さぁどうぞ。」
自称そこそこ天才は先程のあれこれを無かった様に、席に座った二人に食べる様に促す。
「おー、スゴイ!自天さんおいしそー。」
「有難う御座います、ジーニアスさん。このお礼は必ずや。」
対照的に感謝の言葉を述べる二人に絶妙に喜んで良いのか指摘すべきか悩みながらも満足そうに見やる。
「いやいや、礼はあの布で十分収支プラスだ。何せあれのお陰で幾つもアイデアが連鎖的に湧き上がってくれたのだから。
それよりも、何よりも先ずは食べる事だ。
胸を張って自称そこそこ天才がそう口にする中、孫娘はと言えば既に肉を切って口にしていた。
「さいこー、おいしー、肉が染みるぅ~。こんなの食べたの久しぶり?初めてかも。」
語彙が蕩けて泣き出しそうな勢いだ。大袈裟そうだが、実際、あの村の現状でこれが食べられる訳がないので、悲しい事に心からの言葉だな。
「これは……素晴らしい味わいです!
噛めば噛む程に素材の味が口に広がり、そしてその全てが濃厚で、しかしあっさりと食べられます。」
シェリー君はこれの正体に気付き、そしてそれを敢えて口にせず口に運び堪能していった。
「ソースも試して頂ければ幸いです。」
気取った素振りで自称そこそこ天才が自分の鉄皿にソースを回しかける。
熱された鉄皿にソースが触れて揮発し、香りが全員の鼻腔を直撃した。
「……自称そこそこ天才さん、お代わりって御座いましてです?」
「勿論。」
孫娘の熱視線が自称そこそこ天才に向けられる。勿論、鉄皿には何も載っていない。
「良い香りですね、熱せられる事を計算して作られたソース。
これ程のものならば強く推す理由も頷けます。」
対するシェリー君は生きる為に反射レベルで焼き付けたマナーを崩さずにソースの香りと更なる味わいを得たステーキを堪能していった。
「食べたぁ!お腹一杯。」
「ご馳走様です。美味しゅう御座いました。」
1時間に及ぶ食事の末、ステーキは計7枚消費され、テーブルに載る他の皿の上にも何も残らなくなった。
サラダ、スープ、パンに至るまで、全てである。
一日飲まず食わずでいきなり……という心配は杞憂であった。
「ジーニアスさん、オーイさん。改めて、ご協力有難う御座いました。
そして、一日以上も眠ってご心配をお掛けいたしました。」
最早見慣れた家が片付けをする中、二人が顔を見合わせた。
二人共意図的にその事を隠していたが、バレていた。
「あれー?」
「バレてたの?」
「身体に疲労感が無かったですし、お二人の気遣いの仕方から私はとても心配されていたのだなと。
ではどうしてかと考えて、ただの思い付きでしたがね。」
「無理とか、していないよね?」
「村の様子は私の発明でチェックしている。状況としては順調だ。それだけは言わせて貰おう。」
二人が身構える。当然だ。あれだけの大立ち回りをして、気絶する様にそのまま丸一日眠っていたのだから。
「誓って、無理はしていません。
一日眠らせて貰えたので身体疲労は無く、魔力も十分。不調は何処にもありません。先程も扉を開けられましたしね。」
それを聞いて自称そこそこ発明家の顔が苦虫を噛み潰したものに変わる。
「シェリー=モリアーティー、完全復活です。
これより、アールブルー学園の生徒として、一個人として、スバテラ村の問題解決への取り組みに再び取り組みます。
厚かましいお願いかと存じますが、お二人には御協力を賜りたく。」
「そりゃぁ自分の村だもん、当然。」
「君は面白そうだ、是非。
ついでに私の魔道具を是非試して貰いたい。」
快諾というヤツだった。
「よろしく、お願い致します。」
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