受け止める


 「火、電気、風。この三つにまで絞れれば後は簡単です。

 貴方が突きの寸前に使ったものは『術式:局地暴風』。速度、貫通力を上げる為のものです。

 この段階で私は火と電気に関連する魔法を除外しました。先ず火を除外した理由。何故か、解りますか?」

 語尾が上がった理由が俺に対する質問だと気付くのに時間がかかった。

 「あ、あぁ、こんな場所で火をぶっ放すなんざ阿呆・・のやることだ。ガスが出て手前も死ぬ。

 そうでなくとも、局地暴風が火を巻き込んだら最後、俺まで焼ける。」

 『質問に答えなければならない』と何故か反射的に答えた自分が居た。

 「正解です。貴方の後ろの広場ならまだしも、ここで火を使えば局地暴風が炎を舞い上がらせて自分も無事ではありません。

 そして、獣相手ならまだしも人間たる私に対するのであれば『術式:局地暴風』と電気の併用の可能性も薄い。何故でしょう?」

 「……硬い甲殻や厚い毛皮を持つ相手にゃそもそも槍が刺さらねぇ。最悪電気が通らねぇ事もある。だからやるなら貫通力を上げて確実に肉に突き刺して感電させるのが常套手段だ。

 だが、人間ならそんな必要はねぇ。触れただけで余程の事が無い限り当たれば即終了だ。わざわざ手から武器を離す意味がねぇ。適当にそこの広間で待って、一発掠めさせりゃいい。投げずに突き刺すか払うかすりゃぁ良いところで投げるって事は……」

 「えぇ、ですので風あるいは空気に関する術式と考えました。勿論、推進に風の術式を使うのであればその応用で穂先にも術式を付与するであろうという推論も成り立ちます。

 ですので、風に関する魔法……しかも手から武器を離さないといけない程の極めて大きい破壊規模を持つ術式だと考えられました。

 こちらへの投擲前にそれが解りましたので、風に関する術式を書き換える準備を終え、触れた瞬間に実行。一部指向性を変えて私への被害を押さえ、『身体強化』と『強度強化』を使って槍の純粋な推進力を止めました。」

 どんな頭してりゃぁそんな狂った推理……人間辞めた考え方が出来んだよ!

 何より……

 「アンタ、なんでそんだけ出来んのに、避けなかった?」

 それだけ出来る使い手ならワザワザ喰らう意味なんざ無かった。

 一発避けて……いや、その前だ!俺がチンタラやってる間に先手を取って一方的にやれた筈だ。

 それをワザワザ、喰らいやがった。『術式:紅蓮風刃』を無効化していたとはいえ、『術式:局地暴風』・『身体強化』・『強度強化』・『気流操作』の効果が乗っている一撃だ。獣の骨肉を砕くのに十分な殺傷力はあった。人間なんざ串刺しどころかミンチだ。

 そんなものを避けられるのに、わざわざ受けるなんざ馬鹿か阿呆か命知らずか……

 「貴方が言ったのですよ。自分の一撃を受け止めて無事だったら、その時は当学園生徒の居場所を話す。と。

 故に、話して頂く為には受け止める・・・・・必要がありました。ですから受け止めたまでです。」

 表情は、一切変わっていなかった。


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