戻れない淑女の道
「は?」
何を言ってるんだ?
何を考えてるんだ?
なんだコイツ?
俺は確かに言った。『簡単な話だ。俺の一撃を受け止めて無事だったら、その時は話してやるよ。』ってな。
だからってうっかり食らったら人間をミンチに変える槍を真正面から武器も無しに食らうか?止めるか?言葉通りに受け止めるか⁉
吹き飛ばされた俺の前に、槍を軽々と持った自称学園長先生が立つ。
見れば見る程無傷。俺の槍を止めた指先の薄皮一枚さえ切れてねぇ。
人外、いや、理外埒外論外の化け物だ。
今まで遭遇したどんな獰猛な牙を持つヤツよりも、どんな鋭利な爪を持つヤツよりも、どんな堅い装甲を持つヤツよりも、どんな巨体を持つヤツよりも、どんな俊敏な足を持つヤツよりも……
怪物。生物としての枠組みを外れ、更にその先、道の果て、その先へと戻れない道を今も歩き続けて平然として見せる怪物だ。
俺の相手にしていた奴等とは、俺達とは、根本から違っていた。
「さぁ、約束は果たしました。当学園生徒の居所は?」
怪物は俺に対して問答無用だった。
「一つ良いか?」
「どうぞ。」
「なんで最後、槍を止めた後にあんなものに入っていた?さっき入っていた得体の知れない真っ白な球体、ありゃぁ、なんだ?」
最期に、解らない事を時間稼ぎがてら訊いてみる。
答えるかどうかは解らなかったが、あっさりと答えは出てきた。
「気流操作で砂埃を避けていただけです。淑女たるもの、砂埃に塗れた様を見せる訳にはいきませんからね。」
淡々と、表情一つ変えずに自分のやった事を説明されたが、意味が解らなかった。
なんだこりゃ?笑えてくる。
「あぁ、解った。お嬢さんはこの先だ。だが……もう一つだけ、頼みがある。」
目の前にはフィアレディーが居る。両手に持っていた二本の刃は既に地面に落ちている。
もう相手は俺の目の前だ。自慢の槍は相手の手の中で、それを奪い返せたとて……だ。
さっき勝ち目どころか傷を付ける余地さえねぇ事を事実として見せられた。今更これをバカみてぇに振り回しても、俺は瞬く間にバラバラにされる。
だったら、少しでも会話して命を
これだけ音を立てたんだ。どうにかするだろう。
「俺が言える義理もねぇし、守られるかどうかを見届けられるモンでもねぇが……どうか、俺は殺してもあの子を殺さないでくれるか?」
「はい?」
ここにきて、初めて目の前のフィアレディーに変化が現れた。
殺人槍を文字通り受け止めた時にも動かなかった表情に変化があった。
それまで表情が石の彫刻の様だったのに、俺の命乞いに対しては怪訝な顔をした。
「貴方は、何を仰っているのですか?」
フィアレディーの疑問に俺が答えようとした時、俺達二人の居る場所の天井から爆発音がした。
天井が、燃えた。
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