机に収まらない理論

「出来る訳ねぇ!」

 信じられないから言っている訳じゃねぇ。実際に起こっているのは事実だってのは認めてる。

 だが、『実際に出来る』事だってのは解るが、どうしてそうなったかが解からねぇ。

 術式の改ざん自体が難しい挙句にそれを瞬間的に、高速で飛来する槍の穂先に触れながらやるなんざ正気の人間のやることじゃねぇ。下手すりゃ命が吹っ飛んでた!

 俺が術式で何をするかなんて解っていなかったってのに!

 「出来ますよ。

 全く未知の術式であれば少し・・難易度は上昇したでしょうが、貴方が風を使うことは解っていましたので、槍に干渉する前に最低限の書き換え準備は終わっていました。」

 「は?」

 何を言ってる?

 「先ず、この槍の柄は太く、しかし弾性に富み、重く、穂先は厚く、大きい。

 使われている金属や木材、塗装材は共通して腐食に強く、頑丈という特徴があります。

 これらの事から、この槍は切れ味を少し損なう代わりに刃毀れや折れのリスクを減らしたものと解ります。

 この槍は、人に向けることを前提としたものではなく、もっと大きく頑丈な相手を想定して作られたもの。

 もっと言えば、人より大きく堅牢なものを続けて相手取る事を前提として万一の武器の破損や使用不能を避ける事に重きが置かれています。」

 化獣バケモノ相手に人間様が強く出られる点は武器を持ってるって事だ。逆に武器が無けりゃぁ食いでのない足のトロい・・・美味いだけの虫けらになる。

 だから、俺達みたいな人間様同士の殺し合いよりバケモノ退治の専門家としての傭兵は武器に強さ強度を求める。だが……

 「なんでそんな事が解る?」

 一目見てそこまで解るのは同業くらいのモンだ。しかも、材質やら塗装剤からの腐食耐性まで見抜くなんてのは明らかに異常。

 「相手が対大型生物の専門家だと判明すれば使ってくる魔法の性質は絞られてきます。

 主に火、電気、風の三つ、例外こそありますが、この三つの内のどれかです。前二つは大半の生物にとって一定以上の効果があり、後者は前二つと比較すると効果量は落ちますが、炎の様に火災やガスの危険性を考える必要は無く、雷の様に感電の恐れもなく、場所を選ばず前二つの効果が薄い相手に対しても一定以上の効果を安定して出せますからね。」

 今までのクソったれな仕事場戦場の記憶を引っ繰り返す。

 女でここまでやる同業者が居るなら、名前か顔くらいは知ってるハズだ。

 居ないな、これだけ出来れば傭兵じゃなくとも国内外に名前を轟かせてる筈だ。フィアレディー?やっぱ知らねぇ、本当に何処の誰だ?

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