Hollow Tarp その6
H.T.を用いた戦術は相手の頭脳を攻撃する。相手の心には『柔か剛か』の選択肢が浮かび上がる。
柔への対策を行えば剛が粉砕し、剛への対策を行えば柔が締め付ける。
片方への対策がもう片方への致命的な隙を生む。そして、安易な手段は致命傷へ。かといって熟慮する暇なぞ与えない。
毒爺は未知の相手に苦戦している。それが表情から見える
相手にとって厄介この上無い。それは同時に、自分にとっても厄介この上無い事を意味する。
(横薙ぎ…避けない、受ける事は困難……強度最大で流し切る!)
鋭く重い事が容易に予測出来る一撃の予備動作、そしてそれが描く軌道が見えて、敢えて避けずにその軌道に割り込みました。
ドクジーさんの動き自体は中毒事件の時に見ていましたし、先程まで観察に専念していました。
だからこそ、知っているからこそ怖い。
H.T.の側面を滑っていく杖。受け流す両手に伝わる衝撃は目に見える以上で、以前相対した大型の獣の衝突を彷彿とさせました。
シェリー君は身体能力を確保するために常に最低限の魔法を使わねばならない。
そして、その最低限はシェリー君にとっては少なくない消耗。H.T.の強度も一定を下回れば脳や骨を持っていかれる。
柔のカウンターは中心部こそ強度を上げているが、力加減を間違えたら最期の綱渡り。
剛の一撃も構えから当てるまで、少しでも力の伝達を仕損じれば押し負ける綱渡り。
いつまでもは続けられない。少年のような目で、悪意も無く殺意を突き付ける目の前の老いぼれの望まぬ結果はもうすぐそこまでやって来ている。
『見えてきた。』
ドクジーは打ち合う最中、自分を惑わす攻撃の数々の正体を見破ろうとしていた。
切っ掛けは打ち合う時の妙な感触の違いとそれに対応する獲物の先端の揺らぎの違いだった。
杖を奪われそうになる時には決まって相手の得物の先端は揺れていなかった。
逆にそうではない時には相手の得物の先端は打ち合いの衝撃で僅かに振動していた。
奪い取る時、妙な感触の時には得物に弾性が無く、そうではない時には得物に弾性があるのだ。
『得物が魔道具で、打ち合いの最中にその性質を変化させているのではないか?』
それがドクジーの仮説であった。
半分正解。そして半分致命的な間違い。しかし、全て正解に辿り着けたとしても、致命的な部分を理解していたとしても、ドクジーの出来る事はたった一つしかなかった。
『打ち込んで来る時の加速といい、表面の変質といい、反射に近い速度でかつ精緻な魔法のコントロールが可能と見た。小細工技術では到底勝てぬ。
ならば、ならば相手が追い切れない程の速度で、合わせる隙も与えずに、防御も小細工も何もかもを打ち砕く最強の一撃で仕留めれば良い。
既に体は悲鳴を上げている。脳が全身からやって来る痛覚と限界と危険の訴えを受け取っている。
だが、神経は全身に張り巡らされて外界の刺激を受け取っている、骨は砕けておらずに未だ立って構えを取っていられる、心筋は爆発しそうな心臓を辛うじて留めて全身に沸き立ちそうな血液を送り出している、獲物も折れていない。
訴えを無視して全身に魔力を巡らせる。
残っている力全部ではない、もっとだ、もっと必要だ、自分の器が自分の魔力で自壊する程、一瞬だけ砕けない程必要だ。自分の全部だ自分の全部以上だ何もかもを使って殺そう!』
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