Hollow Tarp その5

 H.T.はそもそもが布。それを魔法で固めて仕込み杖と打ち合っている。

 では、魔法を解除したらどうなるか?当然元の柔軟な布に戻る。


 打ち合う瞬間に、棒状にしたH.T.の中心部を除き、強度強化の魔法を解除したらどうなるか?

 中心は硬質だがその周辺はただの布に戻る。勿論、杖の接触部分は沈み込み、H.T.に埋もれる形になる。


 その歪んだ形状のまま、強度強化を再度使えばどうなるか?

 歪んだ形状のまま強度が上がり、埋もれた杖は先程まで柔軟だった硬質な布に固められる。

 そのまま手元に引き込めば武器は没収。途中で拘束を敢えて解除して武器を引き戻させればその隙に一撃を加えること出来る。

 柔軟と堅牢、二つの性質を予備動作無しに切り替えることが出来る。

 知らなければそのままこちらの術中へ。

 知っていたとしても、得物を合わせる瞬間に、どちらの性質か瞬時に判断して対応しなければならない。

 瞬く間に選択肢は突き付けられる。待つ道理は無い。攻め立て続けて思考に綻びを生み出し、最後には破綻へ。

 これをやる為に未来予測を先に仕掛けた。H.T.を十全に使うには攻撃の瞬間、コンマ数秒単位で魔法のオンオフを切り替えねばならず、オン状態であっても魔法の効果範囲を限定しなければならない。

 『自分の攻撃に対して対応しようとする相手の行動を予測し、その上でコンマ数秒単位の精密動作性を求められる魔法制御を行う。失敗すれば死がそこに待っている。成功しても頭が過剰な負担で数日役に立たなくなる。』

 やるかね?あまりにも過剰な負担だろう?故にこの形にした。


 横薙ぎの一撃で腕を狙う。両手で得物の端を持って構え、側面を滑らせるように横薙ぎを流し切り上に弾きつつ、同時に距離を詰めてくる。

 弾かれた杖を強引に振り下ろして抵抗するも、得物の先端で的確にそれを止める。点で捉えられた感覚が杖を持つ手に伝わる。が、またも妙な感触。

 杖がまたも引き寄せられていく。無理矢理これに対抗するために杖を両手で回転させるように引き戻しつつ、その回転を利用して相手の顔に持ち手部分を叩き込まんとする。

 しかし、これは固い感触の得物で阻まれた。

 打ち合って妙な感覚が手に伝わって杖が奪い取られそうになる時がある。

 打ち合っても違和感の無い感覚が手に伝わらないで奪い取られない時がある。

 かと思えば違和感があって慌てて引っ込めようと体を強張らせた、そんな事に限って杖は奪われず、素直な攻撃が飛んでくる。

 何事も無く打ち合いをしている最中に杖が引き寄せられる時もある。

 ぶつかり合う音が奇妙に響いたと思えば何事も無く攻撃を仕掛けてくる時もある。

 観察しても違いが無い。法則性が無い。何をされている?

 気味が悪いまでに得体の知れない攻撃。だから、だから……


 「面白い!」


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