Hollow Tarp その4
さて、では少女と老人の戦力分析といこう。
筋力。
シェリー君の筋力は間違い無く、完全に、紛れもなく少女のそれだ。
純粋な四肢の力で金属の塊を握り潰す事も、扉を小細工抜きで蹴破る事も、技無しで人間を持ち上げて投げるなんて事も当然出来やしない。
対する相手は足が不自由な老人とはいえ元騎士。
純粋な筋力で比較すれば負けている。
あぁ、確かに身体強化の魔法を使っているために純粋な少女の膂力以上でH.T.を振るう事が出来ているが、それは相手も同じこと。実際に老人の手足で頭蓋骨を砕くだけの出力が観測されている。差は縮まっていない。どころか向こうの身体強化の魔法はシェリー君より出力が上である。 こちらは魔法の使い方、つまり相手と打ち合う時の瞬間的な出力で抗っている状態だ。
武器スペック。これに関してはシェリー君の持ち物の方が実は上だ。
毒爺の持ち物は中に金属を仕込んである仕込み杖。
シェリー君の得物は解っているとは思うが、H.T.の形状を筒状にして強度強化の魔法でそれを高質化。一時的に打ち合えるようにしただけのもので、刃が無いから肉を斬れず、重さが足りないから骨を断てない。更に魔力が尽きれば元の布キレに戻ってしまう為に長引くほど不利。
だが、だからこそ
打ち合いの末、一度距離を取る。
幾度も打ち込んだが、掠りもしていない。
「巧い。実に巧い。」
「お褒め頂き、恐縮です。」
真剣そのもの。こちらから目を逸らさずに構えている。
得物がぶつかり合う直前に僅かに加速し、タイミングが狂わされる。
魔法自体は強くない。だが、瞬間的な爆発力と精緻なコントロールは熟達した騎士のそれ。
誰から習った?名の有る騎士か?それとも学園の教師か?
違う、それは違う。
「シャッ!」
再度踏み込み、打ち込む。
迎え打とうと上段から振り下ろされる藍色の得物が寸前で加速、先程同様に杖とぶつかり合い、互いが互いの衝撃で弾かれ……ない!
軽いが硬質、奇妙な金属と打ち合う
硬い芯に布を巻き付けたような奇妙な感覚。そして杖が相手に引き寄せられるように……
「ッ!」
奪い取られそうになっている事に気付いて慌てて杖の持ち手を掴み引き寄せ、体勢を崩しつつも強引に後退する。
動揺の隙を詰めるように踏み込み、少女の得物が胴体を掠めた。
更に一歩退がって、構え直す。
「恐ろしい、実に恐ろしい。」
騎士の戦い方ではない。
剣の戦い方ではない。
貴族様の儀礼的な戦い方でもない。
得物が急に
杖と打ち合った部分だけ、そこだけが柔らかく沈んで杖を掴むようにして、そのまま引きずり込まれて奪われそうになった。
正々堂々、剣戟で、古臭い流儀に則ったやり方とは程遠い、命のやり合い騙し合いを知り尽くした手段を選ばない血生臭い
到底、通常の環境で教わる様な、若者が使って良い代物じゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます