墓碑銘その2
ギラギラと光る眼が、私の事を宝物か好物を前にしたかの様に凝視しています。
杖を握った手に力が入り、足を踏み込もうとする予備動作が目に付きました。
そして、それまでと違う、何かを起こす直前の、一段深く強い呼吸音。
これらの情報が頭の中で数字に代わり、今まで集まった数字と共に数式を編み、未来の光景を見せてくれます。
「ギィイヒヒヒぃ!」
杖を握りしめ、片足を踏み込んで、予測したとおりに杖が振り上げられていきます。
杖がこれから描く軌道は見えていたので、私がやったのは空中にあるその軌道に触れない様にして少しだけ動く、それだけでした。
描かれていた軌道をなぞる様に杖が振り上げられました。勿論、私はそこに居ません。
避けられたのを見たドクジーさんが振り下ろしの体勢に移行していき、またしてもこれから杖が描く軌道が見えました。
空中に見える軌道に触れない様に動くと、杖が描かれた軌道をなぞって空気だけを切っていき、杖の先端が木製の地面を砕き割りました。
これから起こる動きが実際に起きる少し前に、その映像が今の映像の上にうっすらと浮かび上がる様な、重なる様な、今と未来が同時にそこにある様な、不思議な感覚。
何より不思議なのは、相手の思考に基づいた動きだけでなく、不慮の事故として起こる、相手も予想出来ない行動までもが見える事です。
突進する様な突きの軌道が見えて、その次に見えたのは私に避けられた事で背後の壁の凹みに突きがぶつかり、予想外の衝撃でよろめくドクジーさんの姿。
「ヒヒヒヒィィヒッ!」
突きを避けると、ドクジーさんはそのまま勢い余って壁に突撃。片足で安定しない挙動に加えて疲労からか杖の動きが揺らぎ、思いがけない方向から衝撃が加わり、よろめきました。
「あの、大丈夫ですか?」
ガラス片は既に片付けてあるのは私が一番よく知っています。今のドクジーさんがあの程度でケガをするとも考えていません。それでもよろめいて動きが少し止まったのを見て、万一にでも地面に手を付いた時にケガをしたのではないか?という可能性を私は否定出来ませんでした。
「随ィ分と、余裕ぅですなぁ!
しかぁし!攻撃せねば私はァ、倒せないぃぃぃいいいいい!」
私の心配は杞憂だった様で、よろめいたドクジーさんは腕の力だけで飛び上がって再度私に迫ってきました。
その振る舞いは、獰猛な獣の様。
短い間とはいえ、私が見ていたドクジーさんの影も形も、今の彼にはもう残っていません。
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