既に現役ではないのなら狩れる
「その杖、先程の打ち合いで一切曲がった様子がありませんでした。魔法で強化しているとはいえ、斧を相手に打ち合えること、更に殴った時の音は純粋な木材の
木の棒切れと言うには語弊と殺傷力が有り過ぎます。」
バレた、バレた、バレた!素晴らしい。医学に明るいだろうとは考えていたが、勉学だけでなく観察力も鋭い。これで戦闘力もあれば最高だ。
嗚呼、油断すれば狩られるだろう。油断していなくとも狩られるだろう。ヒリヒリするこの感覚、とても、良い!
目の前の足元、ガラス片が何かに圧し潰され、チャリと音を立てて割れた。
出てきた、出てきた、やってきた!
何も無かった場所に靄の様な曖昧な人影が現れ、それが徐々にハッキリした色と形を帯びていき、はっきりと見えてくる。
透き通って見えた向こう側の景色が見えなくなって、自分が相手にしていた悪魔だったものと相対する。
「おぉそこに!さぁ、観念して私と……?」
渾身の一撃を振ろうとして一瞬だけ、思考がとある糸に搦め捕らわれた。
自分が相手にしているのはシェリー=モリアーティー。それは間違いない。この村に自分を欺ける程の頭脳と戦闘力の持ち主は居ない。
だが、今目の前に現れたのはシェリー=モリアーティーではない。そして、もっと言えば有り得ない者であった。
今目の前に居るのは自分が先程殴り殺した筈の、そして消えた筈のトーレーだった。
「……(こちらの頬をペチペチと叩いて挑発し、眉を上下する)」
『幽霊ではない』という意味だとは解った。しかし解らない。
そもそもさっきまでどうやって消えていた?
先程治せない程度に殴り殺したのに何故傷一つ無くコイツは生きている?
そして、さっきまで話していたシェリー=モリアーティーは何処だ?
冷静に、紅茶片手に考えれば解る単純な事の数々。しかし、極度の興奮状態と殺し合い(と老医は考えている)の刹那で有り得ないと不思議の情報は思考を蝕み、鈍らせる。
「終わりにしますよ。」
正面の男から聞こえた少女の声にハッとなった瞬間、老医は体を痙攣させて意識を刈り取られた。
そして村の若者……もといシェリー君はと言えば意識を刈られて地面に倒れ込みそうになった老医を抱き止めて担ぎ上げた。
「捨て置けば良いだろう?ガラスだらけの地面との抱擁は非常に血沸き肉躍る刺激的で面白い経験になると思うのだが?」
皮肉を込めてそんな事を言ったのだが、そこはシェリー君だった。
「血飛沫を撒き散らして肉にガラスが突き刺さる経験を『刺激的で面白い経験』とは言いません。ただの重傷です!」
果たして医者はどちらだったか?
《今回の結果》
・若者4人と老医1人の気絶
生憎死者は無し、以上。
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