俺は慎ましい
スバテラ村の若者、トーレーは村長の家に来ていた。目的は昨日重症だった見舞い……と見せかけ、その実はクアットの指示、『村長宅の監視をしてこい』の遂行であった。
村長は未だに眠っている。昨日、
解っている。俺達が村長を助けた訳では断じてない。あの年齢であの症状を見る限り、自力で回復したとは思えない。そして、直前まであの女は何かやっていた。ドクジーはあの後何もやってなかったところを見るに、あの女の対応は正しかったのだろう。
村長はあの女にもしかしたら救われたのかもしれない。しかし、それは
クアットは多分
だが、その強引さとそこからくる求心力はこの村で
クアットは村の再興だの自分達の力だけだのなんだのと言っているが、要は自分がこの狭い世界で『自分は偉い』と威張りたいだけだ。
まともに威張りたい奴なら、自信のある奴ならこんな村さっさと捨てて外で生きていける。勝負をする。しかしクアットにはそれが出来ない。
理由は簡単。自分が本当は偉くないと、能力が無いと知っているからだ。自分には力が無いという事だけ、外で勝負をしたら負けるという事
でも無力を認めたくない。自分は凄い、自分は出来る、自分は人の上に立つ器だと思い込む肥大化した自尊心の塊が邪魔をして、冷静さと肥大化した自尊心が矛盾を生み出して、あぁして最後、自分が一番偉い、凄い、都合の良い自分の世界を創ろうとする『負け犬の狂犬』が生まれた。
狂っている、どうかしている、長続きはしない。能力に見合わない事をしているのだから未来は無い。
一発大一番で賭けをするならば、
だが、
俺が死ぬ迄の間、少し他人を見下せて、少し他人よりも良い物を喰って、少し他人が自分を羨む景色を見られればそれで良い。
俺が死んだ後で村が滅びようが、誰が苦しもうが知った事じゃない。俺が死ぬまでの短い時間だけ良ければそれで良し。それが俺の
そして、クアットの横に居て、黙って適当に言う事を聞いていればそれは叶う。
俺は慎ましい。
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