『やっちゃって!』それが号砲だった。


 「犯人は…………だろうと我々は考えている。その根拠は…………だ。故に、残念ながら他に犯人は考えられない。そう考えると、動機は…………。

 だからこそ我々は慎重になっていた。何せ…………となると村人からの反発と不信感が酷い事になる。閉鎖された村一つとは言え、治安を維持する機構が事実上無い中、『本物の恐慌』が起きた場合、一気に村が亡くなる。それがなくとも穏やかに死に絶えるだけだ。

 だからこそ、我々は強引な手を使うのを…単純に犯人を吊るすのを躊躇った。ここに居る二人の戦力を足し合わせれば犯人込みで村人全員を〆る位は正直ワケ無いが、未だ森に不確定要素が潜んでいる中で強硬手段は、この後の戦力を減らす事に繋がる。

 だからどうしたものかと悩んでいた。」

 自称そこそこ天才は一通り語り終えて、ココアを飲み干した。

 今のところ、シェリー君と自分が持っている情報とそれから導き出される昨日の事件の真実を並べ終えた。そして、自称そこそこ天才の見解は概ね正解だ。

 あぁ、正確に言えば動機部分だけが事実とは異なっていたな。これに関しては、悪意の生まれる光景を見た回数がモノを言う訳だ……。

 私を除けば……

 自称そこそこ天才>シェリー=モリアーティー>孫娘

 といった所だ。そういう訳で、孫娘がどうなったかといえば……


 「…………ソでしょ。…………ゥソでしょ?」


 壊れた絡繰り仕掛けの様な有様となっていた。先刻の覚悟は紙吹雪の様に吹き飛ばされて、顔から血の気が引いていき、涙も流れない程目が虚ろになっていた。

 先程までの威勢は呆気無く瓦解した。

 まぁ、小娘の覚悟なんて本来こんなものだ。シェリー君のアレ・・が異常値外れ値の類だから勘違いしがちだが、本来剣を向けられる事や、盗賊に囲まれる事や、重火器の一撃を頭で受ける事は日常にも非日常にも中々あるものではない。

 身近な人間が邪悪を成す。それが二日連続で起きた。

 しかも一件目の犯人は自分の祖父で自分は共犯。二件目ではその祖父が倒れて死にかけた挙句に犯人は身近な人間。おまけに動機は度し難いときている。

 刺激が無かった村暮らし。それが一変して劇的でストレス塗れ。助けを求める相手は無し、順当に行けば破滅。逃げ場は無い。

 さぁ、想像してみよう。

 自分が波乱と無縁な少女だと仮定して、果たしてその状況を直視出来るかね?独りで立ち向かえるかね?

 「………………………………」

 それが出来ないと踏んで、二人は躊躇っていた。

 「ォ……オッケー……で、私は、何をすれば?

 もう躊躇わないで、やっちゃって!」

 孫娘が必死に絞り出した声は二人の心に届いた。

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