21分

 シェリー君が浴室に入って21分後。

 「お待たせして申し訳ありませんでした。」

 綺麗に洗濯され、おまけにアイロンで皺まで伸びている衣服に身を包んだシェリー君が慌てた様子で浴室から飛び出て来た。

 「いやいや、待ってなどいない。にしても洗濯終了には二十分、二十五分はかかると言ってあったのだが?どうしてバレてしまったのかい?

 洗濯、乾燥機の駆動音が15分の時点で止まってしまい、君にそれが聞こえて妙だと思われた……なんて事は無いハズだな……駆動音なんてものが鳴り響く程チャチなものを作った覚えは無いんだが……。」

 自称そこそこ天才は作業の手を止める事も緩める事も無く、顔をシェリー君側に向けながら首を傾げていた。

 自称そこそこ天才の発明品に関して落ち度は無かった。気遣いに関してもなんら批評するべき点はない。が、甘い点が一つある。それは自分自身だ。

 「ジーニアスさんが時間の説明をなさった時、最初に口にした時間を言いながら迷い、言い直しましたよね?

 ジーニアスさんの能力は短い間とはいえ知る機会は幾つも有りました。故に、自分の作った発明品の性質を見誤るとは考え辛いと、発言に違和感を覚えました。

 そして、考えたのです。『もしかしたら私の事を気遣ってゆっくり出来るようにと時間を多く見積もって下さったのかもしれない』と。」

 自称そこそこ天才の対人能力が低い訳ではない。が、シェリー君はあの学園でのろくでもない経験値を積み重ねてしまった結果元々低くはない対人能力を有していた。

 更に私が有していた技術体系としての対人能力を教え込んだ結果、その辺の三流詐欺師からは騙されない程度の虚偽からの防衛能力を獲得している。

 そして、ついでにその辺の三流詐欺師程度なら丸め込んで財布の中身を空にする事が出来る程度の詐術も獲得している。

 自称そこそこ天才に騙す気が有っても、そこに『騙し切れなければ命が無い』という緊張感が無いのであれば、シェリー君に対して嘘とは成り得ない。

 まぁ、騙す能力があっても騙す気はなく、嘘を見抜いた上でそれに乗る事を良しとしてしまう本人の善性は看破能力を半ばオブジェに変えてしまっているのだが……ね。

 「ふぅむ、成程。この自称そこそこ天才の能力を信じたが故にそこに至った訳か……ならば私からは何も言えないな。

 私の発明の音が五月蠅かったという事は?」

 それに対してシェリー君は微笑みと共にこう返した。

 「まったく、ありませんでした。

 もし私が、自称そこそこ天才の発明家、ジーニアス=インベンターさんを知らなければ、決して気付きませんでしたよ。」

 それを聞いた自称そこそこ天才は満面の笑みで返した。



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