今夜はパスタにしよう。

 炒められた野菜・塩漬け肉・キノコのソテー、茹でられていたパスタ、牛乳がフライパンの上で一つになっていく。

 慣れた手付きで最後の味付けをすると用意されていた皿の上にそれを盛り付ける。


 シェリー君はその様子を大人しく、そして真剣に見ていた。

 最初、シェリー君は当然の様に『手伝います』と言っていたのだが、『調理の過程を客観的に観察し、調理補助機能の改善点の洗い出しを頼みたい』という自称そこそこ天才の効果的な方便でご覧の通り、大人しく座り、言われた通り、真剣に観察して改善点を探っている。

 「さぁ、自称そこそこ天才特製の『キノコと塩漬け肉のクリームパスタ』の出来上がりだ。

 冷めない内にどうぞ召し上がって欲しい。ちなみに、これはあくまで調理サポートの魔道具の性能確認なので、くれぐれも気は遣わないように。」

 シェリー君の表情を見て先手を打ちながらシェリー君の目の前に皿を置き、自分の分も向かい側の席に置く。

 少し深めの皿に盛られたパスタは渦を巻くように高く盛られ、キノコ・肉・野菜・パスタがムラなく乳白色のクリームを纏っている。そして、今しがた調理をしたばかりなので当然白い湯気が立ち昇っている。

 「……有難う御座います。では、遠慮無く頂戴致します。」

 座りながらではあるが深く一礼。そして食べようとして……

 「あぁ、すまない。少し待って欲しい。」

 自称天才が先程の発言と矛盾する様な事を言った直後、自分の皿のパスタを一口、慌てて口にした。

 「?」

 急な出来事で首を傾げるシェリー君。あぁ、自称そこそこ天才よ、その行為には君にとって重大な意味が有るかもしれないが、シェリー=モリアーティーという人間にとっては意味がないのだ。それは私という教授が居るからではなく、看破能力によるものでもなく、本人の変わらない性質によるものだ。

 「ふむ、ソースの味付けは塩漬け肉の塩味込みで計算しているので丁度良い。パスタも野菜もキノコも火の入り方は良い。肉、野菜、キノコはそれぞれの味と香りを最大限引き出してクリームソース全体を重厚に仕立て、自身も活かし切っている。が、重厚だからと言ってくどいという事もない。そして、食べても身体に急激な変化が発生していない。

 つまり、『変なモノは入っていない。』と断言しても良いかな?

 すまないね。食材が限られている故にキノコを使わねばならなかったんだ。」

 先程までシェリー君の置かれていた状況、自身は毒物を口にした訳ではないが、多数の中毒者を見てきた。

 そんな事が起きた直後、半ば村を追い出されて本来ならば精神状況は極限状態を超えているべき所で他者の調理した食物を食べるのは中々勇気がいると自称そこそこ天才は考えたのだが……。

 「大丈夫ですよ。とても美味しそうです。頂きます。」

 にっこりと笑ってパスタを口にした。

 その笑みに、一切の策謀は無い。


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