悪い事は団体でやって来る13


 荷物を運びながら真っ暗闇の森へと進む。

 霧は無く、同時に生き物の気配も相変わらず気色が悪い程に無い。

 「トウチャクダ」

 蝙蝠がそう声を掛ける。同時にシェリー君も足を止めた。

 目の前は何もない森。木々に何か違いが有る訳でも、岩や建物といった変わったものも無い。

 だが、見えないだけでそこに在る。

 「シュウイノアンゼンカクニンチュウデスシバラクオマチクダサイ」

 先程までの、音質こそ悪いが人間的だった声が非人間的なそれに変わった。

 シェリー君の呼吸音、風の音と木の葉の揺らぎ。それ以外には何も無い。

 空気が冷たく、吐息が僅かに白い。



 

 「今回のこれも事件。勿論犯人は、村内部の人間です。オーイさんの話を聞く限り、今回使われた毒物は有名なもの。子どもでも危険だと知っているキノコが原因。

 如何間違えても村の人が一斉に口にする事は無いですし、昨日の今日であれば猶更です。」

 「そうだね。」

 「そして、今日起きた事件は確実に悪意が、最悪殺しても良いという殺意がありました。

 村長さんは、放置していたら確実に死に至っていました。」

 「的確な処置ご苦労様だ。村の連中からの賞賛は無いので、私一人から代理で贈らせて貰おう。

 使おうと思えば使えなくもない程度の資源ではあるが……よく守った。」

 淡々と、感情変化が無いまま冷静に推論を述べる。対して私もふざけた言い回しはしない。内容自体は皮肉に満ちているのはご愛嬌だ。

 「現状、確証はありませんが、疑いを抱く相手が居ない訳ではありません。それでも、今の私にはその方を確実に捕え続ける術がありません。」

 現状、シェリー君が犯人を捕まえ、明確にその証拠を幾つも提示したところで、ここは閉鎖された環境。裁判長は不在、弁護士は不在、検事も不在。あるのは民意。村人の信じたくないものは見えなくなる。やったところで意味が無い。

 ああ、実に民主的な場所だ。皮肉なことに、ね。

 「君の見立てでは今日中にその犯人は更なる犯行を重ねるかね?」

 「いいえ、それはありません。少なくとも村全体に行き渡る毒を用意するのは容易ではありません。

 そして、それを容易にクリアする方法が無い訳ではありませんが、少しは鳴り・・を潜めるでしょう。少なくとも今夜直ぐに大きく動く事は無いかと。」

 「では、今やるべき事は休息だ。」

 「勿論承知しています。」

 「明日以降の話は自称そこそこ天才の協力も取り付けた。明日にでも情報共有を行い、じっくりと」

 「解っています。」「解っていないな。自分が冷静でない事くらいは自覚するといい。冷静さを欠いた者は愚かな結末に近付くが、自分が冷静だと思い上がっている者は既に愚かな結末に辿り着いている。

 前者は自身の愚かさに気付ければ愚かな結末を回避出来るが、後者は気付かずに愚かな結末に至って初めてそれに気付く。そして気付いた時にはもう全てが手遅れだ。

 他者の話を上の空で聞いている輩には何も成せない。自分が今現状と比較してどうしようもない冷静さを欠いた状態と自覚しろ。

 今夜は何も起きない。ならば明日に備えて休め。

 もし君が、連中が苦しみ死んでいく様を見たいというのなら、私は止めないがね。」

 「ッ!」

 少しだけ脅かして、やっと顔色が変わった。

 「やぁ、待たせた。自称そこそこ天才の家へようこそ。

 客室は対して広くはないが自宅だと思ってゆっくりくつろぐと良い。」

 文字通り目の前に現れた自称そこそこ天才が空気をぶち壊した。

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