軍事機密レベルの御宅訪問



 今日の日中までは屋外で茶会をしていたが、中に入るのは初めてだ。

 光学迷彩を張り付けているとはいえ、扉の先にある空間は生き物の腸の様に脈打っているということはなく、天井から床までが金属で出来ているということもなく、木製の床に椅子とテーブル、柱がない大きな空間が広がり、部屋の奥には単色で塗られた扉が幾つかあるといった具合だ。

 「お邪魔いたします。」

 僅かに青ざめた状態のまま、自称そこそこ天才に手招きされて家の中へと連れていかれる。

 「おそらく君が初だろう、この家の快適さを知る私以外の人間は。」

 胸を張りながら倒置法でわざとらしくセリフをほざく様はまるでミュージカルごっこ。この状況下で目をキラキラさせている。

 これで両手を広げて天を仰げばさらにそれらしくなるだろう。

 「さぁ、ディナーが出来るまでに時間がある。私の!この!発明を!拍手喝采かつ刮目して欲しい。」

 あー、そして今両手を目一杯広げた。

 今、世にも珍しい子どもが木箱の上でやる様なミュージカルポーズを取る大の大人の発明家という風景が見られた。

 「いえ、流石にこれ以上ご迷惑を掛ける訳にも……」

 シェリー君の答えは意図的に華麗に無視された。

 「是非私の発明を見て欲しい、味見をして欲しい、体感して欲しい。私が自称とはいえ、茶菓子をお茶と透明な家だけを作れる程度のそこそこの天才であると思われては困るのだ。

 折角招いたんだ。我が家の住環境他多彩で多様な性能を十二分に堪能して感想や改善点を後程教えて貰いたいのだ。

 発明家にとって発明したものが誰にも使われない、評価されないというのは最も辛い事。ということで、私の自尊心の為に協力して・・・・、頂けるかな?」

 目の前の男はふざけた呼び名を自称しているも、思慮が浅いという訳ではない。

 「…………」

 「おっとその前に……洋服の洗濯と風呂が先だな。」

 そう言いながら一瞬だけ自称そこそこ天才が視線を顔から少し下に向けた。

 昨日も今日も、中毒で嘔吐している人間は何人も居た。今日は幻覚と青い斑点の症状の患者も居たとは言え、全く汚れずに……という訳には勿論いかない。

 そして、シェリー君には烏の行水をするどころか、着替える余裕さえもなかった。

 「話をする前に、私謹製の自動調理魔道具の性能を確認して貰う前に、先ずは水場回りを見て貰おうか。」

 部屋の奥、水色で塗られた扉へと手を引かれる。

 案内された扉の先には陶器で出来た大きな湯舟、シャワー、そしてスイッチと蓋の付いた金属製の円柱が鎮座していた。浴室だ。

 「その箱の蓋を開け、汚れた衣服を入れて蓋を閉め、スイッチを入れる。

 そうすれば自動で洗濯をして、乾燥して、一通り皴を伸ばして畳みまでやってくれる。

 二十分、二十五分はかかるから、その間湯船で寛ぐといい。

 では、ごゆっくり。」

 簡潔に説明を終え、浴室の扉が閉められた。



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