悪い事は団体でやって来る4


 何度も言うが、現状は完全に修羅場。死ぬか生きるかの瀬戸際に居る人間が何人もその辺に転がっている。

 診療所の主たる老医、私から一通り人間を毒殺する方法……人間に影響を与える動植物の成分についての知識を叩き込まれたシェリー君、今そこで役立たずになっている孫娘。

 この状況下に対処しようと動き、まともに使い物になっていたのはその三人、のみ。現在は内一人が置物になり、内一人は重症相手に付きっ切り。

 そして、未だに事態が収束しているとは言えない。収束していない。未だに中毒を起こして対処を要する連中が束で居る!

 死体を増やしたいだけなら歓迎しよう。正直、この面倒極まりない状態に首を突っ込んであれこれするだけ手間だ。人を救ったところで金にならない、名誉もない、地位にも繋がらない。それだけなら良いが救った末に救った連中に石を投げられ、今朝の様に殺しに来る輩を増やすのはあまりにも面倒過ぎる。

 死体を増やしたい訳ではないだろう?村の中でデカい顔をしていたいだけの浅慮な若者達。君達は死人を増やしてただでさえ窮地にあるこの村を終わらせたい訳ではないだろう?

 君達が医療を齧っているのであれば何ら問題はないが、それなら先程シェリー君を押し退けて診療所で人命救助が出来ていた。出来ないのは解っている。

 なら、邪魔をするな!シェリー君はお前達にとって利になる行動をわざわざやっている。本人は人を見捨てたくないが為に全力を使って事に当たっている。

 せめて考えろ、利用しろ、放置すればお前達とこの村全体とシェリー君の三者が得をするというのに……あぁ、頭が痛い。何故考えないのか?非道でも狡猾でも小賢しくてもかまわない。考えろ、利益を!


 「さぁ!この村に毒をバラ撒いたクソ外道に天罰を下ぁす!」

 そう言ってはいるが、当の本人は私に締め上げられていたが故にこちらに向かってくることはない。むしろ付き添いが居なくなった所為で汚物まみれの床に落ちた。

 周囲の軽症連中は一切こちらに手を出さない。シェリー君を庇おうともせず、若者達に力を貸す訳でもなく、遠くから怪訝そうな顔で傍観しているだけ。

 毒をばら撒いて治療を行うとでも思っているのか?マッチポンプだとでも思っているのか?昨日の今日で同じ事を繰り返して疑われない訳がないだろう?

 「さぁ、コイツを叩き潰してこの村の不幸は全て終わりにしよう。大丈夫、ここで我々が・・・止める!」

 診療所の中だというのに、錆の付いた鉈を掲げて高らかに宣言する。それに応えるのは同じく場違いに凶器を振り回す連中のみ。

 老医は血走った目で診療所内を縦横無尽。こちらに目や耳を向けていないし、ここで助けを求めれば完全に瓦解する。

 孫娘は相変わらず虚空を見ているだけ。役に立つ事はない。

 そしてシェリー君は相変わらず村翁への対処を行っている。今手を離せば村翁は確実に死ぬ。



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