かいてき組のコンビネーション

 「同じ商人・・・・……?」

 怪訝そうに、胡散臭そうにスカーリとデカンを見やる青年。

 商人らしさというのは定義としては曖昧ではあるが、スカーリとデカンは果たしてイタバッサと同じ種類の人間かと問われれば、首を横に振らざるを得ない。

 「そうさ、アタシらも商人の端くれ。あれを商売だと認めて黙って見てたら廃るってモンさ!商会の看板に泥を塗るってモンさ!義理人情が泣くってモンさ!」

 堂々と胸を張り、一段と大きな声で青年へ半歩距離を詰める。視覚聴覚共に大きな刺激が加えられた青年と近くで様子を見ていた町民の注意がスカーリに向く。

 そして、青年の注意がスカーリに向き、デカンへ向けられていた目と耳が無くなったのを見計らい、後ろに隠していた女を商人に気付かれないように逃がす。

 遠巻きに見ていた町民の数人はその様を俯瞰出来たからその手際に気付けた。しかし、間近で見ていた青年と通りすがりは気付けなかった。

 気付かれるリスクがあるからこそ、アイコンタクトは互いに出来ない。

 タイミングが早かったり遅かったりすると、青年がスカーリを無視してまたしても押し売りを開始する可能性もある。

 互いに互いのタイミングを理解し、最適な連携を行えたからこそ、捕まっていた女はデカンの背中を盾にして逃げる事に成功した。

 その連携に気付いた人間はその晩食事をしながらの会話で、あるいは酒場で酒の肴に今の話を披露し、二人の商人に興味を持った。


 「人の商売を妨害しないで頂けますか?私は強引とはいえ違法性無く正々堂々商売をしていたのに、邪魔をされては困ります。

 同じ商人だと言うのであれば、これはれっきとした営業妨害に当たりますよ?

 何処の馬の骨商会か存じ上げませんが、あのバックドール商会の加盟商人相手にそれをやってタダで済むと思っているのですか?

 その前に、警備官を呼んでも良いのですよ?」

 気付いた時には獲物は逃亡していた。追跡しようにもこの二人を如何にかしなければ次を捕まえる事は困難。だからこそ、強い言葉を使い、半ば脅迫に近い形で徹底的に排除を試みる。

 これが騙し合い潰し合い足の引っ張り合いに疎いモラン商会のルーキーならば、困っていただろう。

 しかし、目の前にいるのは新参少数のモラン商会のとはいえ幹部二人。しかも、グレー寄りのブラックな稼業をしてきた二人。青年の脅しは本物の脅しのそれとは比べられなかった。


 「違法性無く、正々堂々ねぇ……。売り物からして、その言葉は信頼ならないねぇ。商人が不信と不義を売りつけてどうするんだい?」

 赤毛の女が青年の懐にある品物を見て、渋い顔を浮かべる。

 成人男性の手の平程の大きさの直方体の容器側面からホースが伸び、それが薄い布に連結している代物。

 魔道具でも何でもない、曰くも付いていない、新品として渡され、実際にこれが使われた形跡は見られない。

 青年は思った、『一体何がおかしいというのだろう?』と。

 「あの、良いですかい?」

 その疑問の答えを教えてくれたのは、気の強そうな赤毛の女ではなく、強面の、しかし遠慮をした表情の大男だった。



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