推測が人間の武器


 青年から見たデカンの第一印象は粗雑で暴力的そうな大男だった。故に、青年の頭の中には不安な光景が浮かんでいた。

 それはつまり、往来の真ん中にもかかわらず、うっかり冷静さを欠いた大男が激昂して荒事になってしまい、自分が血まみれで警備官に保護される光景だ。

 しかし今の表情を見て安堵した。この男は図体が大きく力は強いが、それ止まり。未だに女の後ろでデカい図体を小さくしてこちらを窺っている。強気に出ればゴリ押しが通ると思った。

 だからこそ、自信満々に、慢心して構えた。

 「何か御用ですか?」

 「その手に持ってるヤツ、一体何なんですかい?」

 野太い声ではあるが、気の抜けたトーンで間抜けな質問が飛んで来た。

 周囲に視線をやると、そこには何事かと遠巻きに見ている野次馬が沢山。宣伝をするには丁度良い環境だ。

 「コホン、ご紹介しましょう。これは寒い日でも快適!3年保証!水を入れて、専用の装置を自宅の竈や暖炉の中に入れて火を燃やすだけで使える温水床!今日だけ・・!これが今だけ3割引きで販売しているんです!限定で入手困難!如何です?素晴らしいでしょう⁉」

 「それは知ってやす。さっきと言ってる事は全く同じですからね。

 で、それ、一体何の役に立つんですかい?」

 「ハァ……いいですか?こちらの容器に水を入れ、竈や暖炉の中に投入て加熱します。」

 そう言いながら頭上に直方体の容器を掲げ、周囲の注目を集める。

 「そして、加熱された熱湯がこのホースを通してこちらのカーペット内部へと運ばれて冬でも暖かく過ごせるようになっています。水と火があれば何処でも使えるので環境を選びません。

 しかも魔道具ではないので誰でも簡単に使えます。竈や暖炉は料理等で使うのでそのついでに部屋を暖める事が出来ます。

 素晴らしい発明だとは思いませんか⁉」

 大声で宣伝して注目を更に集める。

 この町には今、バックドール商会の加盟商人が幾人も来ている。その全てが商会側と契約を結び、ある程度の商品と看板を加盟という形で買い、売れそうな場所へと複数人まとめて派遣されるという形で来ている。

 競い合い、利益を得る為にハングリー精神を植え付けるのが目的だと言っていた。

 ここで目立ち、他の連中を振り切る!

 「ですが、見たところ金属のバケツにホースを付けてお湯で暖まるって代物じゃないんですかい?」

 「…えぇ、まぁ、そんなところですね!……タブン」

 当然、商品の詳細な仕組みは知らない。が、相手の大男も知らない様子。何とかなるだろう。そもそも売れれば何の問題もない!

 「温度調整出来ないから、火傷の危険があって危ないんじゃないですかい?」

 知らなくとも観察・洞察して本質を推測する事が出来る人間の力を青年は忘れていた。

 「え?」

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